第十一幕 愛しのエリザベート
第63話 決断の時
おれたちはまだ緑の壁の中にいるにも関わらず、景色だけが急に変わった。
そこは、江戸時代を彷彿とさせる風景。
「仏様。おいでになってくださったのですか?」
糸子さんが親しげに話しかけているのは、袈裟懸けのお坊さんだった。ちょっと、見た目で年齢はわからなかったけれど、彼女が仏様と言うのだから、きっと本物の仏様なのだろう。
「こんにちは。みな様ははじめましてですよね? わたしはここで、仏と呼ばれる存在になりました。この景色は、糸子さんがわたしにプレゼントしてくれた絵画の世界です。きちんと復元されていますかね?」
仏様は細い目を開けないまま、淡々とお話になった。
仏様は、糸子さんのことが好きだ。本能的にそう感じる。これは、直接対決の予感だ。
「それでは、わたしは糸子さんと山口 努さんとお話がありますので、ほかのみな様はどうかごゆっくりおくつろぎください」
仏様が言うが早いか、薫たちの姿が消える。
「なにをしたんですか?」
「たいしたことはしておりません。ただ、こうしてあなた様とお話をするにあたり、あの方々がいらっしゃってはご都合が悪いのではないかと思いまして」
危険なことに巻き込まれているわけじゃなさそうだ。おれはこのまま、仏様と話をつづけることにした。
「それで? 糸子さんは山口さんと結婚を前提におつきあいをするご決断をなさったのですね?」
はぁ? そういうことは、本人の口から直接聞きたかったなぁ、おい。
「あなた様のように聡明なお方が、このように粗野で、脳内思考がわかりやすい殿方を選ぶとは思っておりませんでした。むしろ、失望しましたよ」
「ああもぅ!! 仏様だかなんだか知りませんけども、あんまりな言い方じゃないですかっ!! 状況を説明してくれないままだし、おれはともかく、糸子さんの悪口まで言うなんて。あなた本当に仏様なんですかっ!?」
つい感情に任せてしゃべってしまったが、このお方は仏様。ああー!! おれ絶対に地獄に落ちる!!
つづく
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