第61話 最強のモブキャラ

「父さんと、ちゃんと話した。わかってくれたみたい。あとは、おれががんばればいいだけ」


 昼休みに、資料室で弁当を広げながら、みんなに報告をした。


「うん。よかったじゃないか」


 薫は、しばらく見せていなかった最強の笑顔を向けてくれた。


「まぁー、今さらだからぶっちゃけちゃうけど、小学生の頃、いじめられてたのを努が助けてくれなかったらさぁ、その、ぼくこんなにかわいいのにグレちゃっていたかもー? なんて思ってたりするんだ」

「え? 響が? そんなことあったっけ?」


 案外そういうことを、おれは覚えていなかったりする。


「そうそう、そいつらが響からおれにターゲットを移した時に、ちょっとした殺意を努に抱いたけれど、おれのことも助けてくれたから、その思いは相殺したけどね」


 舜まで? あれあれ? おれはいつの間に恩返しされる立場にいたのかな?


「だから、教師は向いてると思うよ」


 ああ、あの頃の薫がいつも暗い顔をしていたのを思い出した。


 え? あれ? じゃあおれ、恩返しする方? される方?


「きみはいつだって最強のモブキャラ、山口 努だよ。唯一無二の存在。だったら本気で最強のモブキャラを極めればいいじゃないか」


 それもそうだな。ま、いっかぁ。今さら人気者になんて、なれるわけもない。そう考えたら、気持ちが少し、楽になった。


 ただ、気になるのは糸子さん。さっきからずっと無言なんだよね。


「努様は、わたくしのことも救ってくださいます。いつも……、そう、いつも」


 意味深な言葉を残して、糸子さんはまた黙り込んでしまった。


 そんな中で、いつものように薫が台本を配ってくれた。


 なるほど、今回は『鶴の恩返し』をベースにした『鶴と恩返し』? これって、そのまんまなんじゃあないのかな?


「ちゃんとオリジナルを尊重して書いたつもりだけど。なんだか最近自信をなくしつつあるんだ。ぼくの台本は、どこか尻切れとんぼで、間が抜けているんじゃないかって。こんな台本じゃ、みんなの力を最大限に活かせないような気がする」

「薫様、大丈夫でございます。あなた様の言わんとしていることは、きちんと詰め込まれておりますので」


 そうだよ、とみんなが声をかける中で、おれひとりが台本に目を通す。


 ……これはっ!?


 つづく




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