第57話 終演後
こんな血なまぐさい状態で喜劇なんかでよかったのかな?
おれにはまだ、この二人が抱えていそうな闇が見えないのだが。
「こいつはなぁ、善良な農家の顔をした大泥棒なんだよ。おれに泥棒の手腕を教えてくれたのもこいつで、おれの妻まで盗んだんだからなっ」
なぬっ!? 善良な農家さんが泥棒で、しかもその手下の妻を横取り? したとなれば、また話は変わってくるな。つまり、二人とも大泥棒ってわけか?
「おれの妻をもてあそんで殺しておいて、自分は桃農家に婿入りなんぞしやがって。それで、しらばっくれて善人面したところで、過去の罪が消えたわけじゃないからなっ!!」
「うるさいっ!! お前の妻から先におれにモーションかけてきたんだ。あの女はしつこくおれに追いすがってきてうっとおしかったから殺したんだ」
殺しを認めちゃったな。そう思うと、目の前の桃がだんだんしおれて異臭を放ち始める。
果樹園の向こうから、女のゾンビがあらわれた。もしや、彼女が話の主?
「しおり!! おお、しおり、会いたかったぞぉ!!」
桃泥棒は女に駆け寄るが、女はぴしゃりとバリヤーを張って、桃泥棒を跳ね除けた。代わりに女が選んだのは、桃農家の男だった。
〈憎い。悔しい。お前が、お前が憎いっ〉
「ひっ、ひぃぃぃぃ。なんでおれなんだよ? お前が勝手におれに惚れ込んだだけだろうよ? おれとはあそびのつもりだったんだろう?」
「あなた様はそのつもりだったのかもしれませんが、彼女の方はそうは思っていないようです」
糸子さんは歯を食いしばった。くそう。それじゃあ、説得失敗じゃないか。
「あなた様も、あなた様も。ご自分のしでかした過ちに早く気づくべきでしたのに」
気づけば、泥棒二人はゾンビたちに囲まれて、壁の中に取り込まれていった。
「人間とは、哀れなものなのです」
糸子さんの顔は、二つぐらい年をとった。二人分ってことだろうけど、ちょっと残酷な気がした。
せっかく思い入れのあるブレーメンだったのに。説得失敗とか。
「ごめんね」
おれの謝罪は、糸子さんに届いただろうか?
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます