喜劇 『ロックンロール・ブレーメン』 その四

 トリーは屋根の上で、ローバーは草はらの上で、ワン太は扉のすぐ側で、ニャンタロウはかまどの上で。疲れていたので、みんなぐっすりです。


 そこに、盗賊団が様子を伺いながら戻ってきました。


「おい、お前先に行って様子を見てこい」


 盗賊団の親分は、手下のひとりに命令しました。親分の命令は絶対です。手下はしどろもどろしながら、キョロキョロと辺りを見回します。草はらのローバーにも、屋根の上のトリーにも気づいていません。


 手下はそうっとドアを開けました。そこでうっかり、ワン太のしっぽをふんでしまいます。


「フンギャー!! ガウガウ!!」


 とても老犬とは思えない迫力で手下の足に噛み付きました。驚いていたこともあり、今度は本気です。


 ワン太の声に驚いたニャンタロウも負けてはいません。


「ギャッギャギャッギャッ!!」


 とても老いた猫とは思えない迫力で、手下の顔を引っ掻きます。


「ひぃぃぃぃー!! 化け物だ。化け物がいるっ!!」


 手下の叫び声に、外にいた盗賊団はすっかり動揺してしまいました。


「おい、化け物だってぇ?」

「バカヤロウ!! そんなモン、いるわきゃあーねぇーだろぉーがっ!!」

「でも、見てくださいよぉ!!」


 手下がきりもみしながらやっとのこらさで外に出たところで、ローバーに足を引っ掛けられてしまいます。手下は無様に転んでしまいました。


 最後に、トリーが手下の頭を鷲づかみすると、盗賊団に言い放ちます。


「おうおう、盗賊団よぅ!! 手下の命が欲しけりゃあ、これからおれたちの世話をしてくれねぇーか!?」

「ちっ。なんだ、にわとりじゃねぇか」

「あ。ヤベ」


 姿を見せてはならないと言いながら、自分で姿をさらしてしまったおっちょこちょいのトリーです。ですが、にわとりの握力を甘く見てはいけません。一度は油断して首をはねられそうにはなりましたが、トリーだって立派な鳥類です。その鋭い爪がキリキリと手下の頭に食い込み、血がにじんできました。


「おい、親分!! 助けてくれよぅ!!」

「いいか、おれたちはいずれブレーメンブドーカンで歌う。お前たちは、ローディーとしておれたちの世話をするんだ!! ありがたく思いなっ」


 どうした? トリー。やじるしが出ないぞ、とお思いのみなさん、お待たせいたしました。


「ウィー⤴︎、アー⤴︎、ロックンロール⤴︎!!!」

「イェーイ!!」


 とてもノリのいい盗賊団の親分は、すっかりノリノリで楽しくなってきました。


「まぁいっかあ。家畜を飼ったと思えば、楽しく暮らせそうだぜ⤴︎」


 こうして予想どうり、三匹と一羽はブレーメンブドーカンに行くこともなく、盗賊団の一味として、仲良く暮らしましたとさ。


 めでたし、めでたし。


〈以上を持ちまして、喜劇『ロックンロール・ブレーメン』は閉演となります。ご観覧ありがとうございました。また、お帰りの際はお忘れ物のなきよう、足元にお気をつけてお帰りください〉


 ※閉演ブザー


 ☆☆☆


 つづく

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