喜劇 『ロックンロール・ブレーメン』 その二

 やがて、安心した三匹と一羽は、安全そうな水場に着くと、おいしそうに水を飲み始めました。


 するとどうでしょう。それまでずっと無言だった雄鶏が、突然話し始めたではありませんか。


「よう!! おれにわとりのトリーって言うんだ。助けてくれてありがとうなっ!!」


 三匹は、トリーの軽すぎるノリにとても驚いてしまいました。


「なんてことじゃ。最近はみんな、あんたみたいに話をするもんかのう?」


 ロバのローバーは自己紹介をしながらも、呆れかえってトリーに話します。すると、トリーはどこからか櫛を取り出し、自慢のトサカをなでつけます。


「まぁ、みんながそうってわけじゃぁーないけど、おじさんたち、ロックじゃないな? もっとノッテこーぜ!!」

「ロックとはなんだい?」


 犬のワン太は不思議そうにたずねます。


「ロックはロックンロールのことさ。おじさんたち、どうだい? 行くあてがないのなら、おれと一緒にブレーメンブドーカン目指してみない? ヨロシクゥ⤴︎」

「なんだかおもしろそうだニャー。やってみるニャン」


 元々ノリはそこまで悪くなかった猫のニャンタロウは、すでにそのつもりでいます。


 ですが、冷静になった三匹と一羽は急にお腹が空いてきました。思えばみんな、殺されそうになった身です。食べ物なんて、ろくに与えてはもらえませんでしたので、空腹の限界に達していました。


「あー、お腹が空いたなぁー。けど、ロックだぜぃ⤴︎」

「きみはいいのう。若さと勢いだけはあって。じゃが、それではなんの解決にもならんだろう?」

「いいや、解決してみせるさ。この先に、盗賊団の家があるってぇー噂がある。盗賊団といえば、お宝にうまい飯。なぁ、おれたちがそれを奪ってやろうぜ!!」


 トリーは若者らしく、節操のないことを言いました。これにはワン太も呆れてしまいます。


「盗賊団から家を奪うなんてありえないことだよ。まったく、とんでもないにわとりと仲間になってしまった」

「おれはべつにいいけどさ。その辺の草を突っついて食べれば、腹はふくれるし。けど、おじさんたちはどうすんの? 正論で腹はふくれるんですか?」

「ふくれニャーい!!」


 思わずニャンタロウが叫びをあげました。おそらく、この中ではワン太に次いでお肉が好きかもしれません。


「おい、みんニャー!! 若者の言う通りかもしれニャイぞぉ。このままではおいら、腹が減って死んでしまいそうニャ」


 この中では一番常識的なローバーは、うーむ、と考え込みます。


 そうしている間にも、みんなのお腹は鳴るのでした。


 つづく

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