第55話 親友だから

 学園にたどり着けば、安心しているおれがいる。


「努、できた?」

「薫。おはよう」


 そうしていつの間にか、こいつらの顔を見るのが癒しになっていた。


「描けたよ。ほれ。今回も力作だ。で、ついでに動物たちを殺そうとしていた人間も描き足してきたから」

「おはよう。よくできているじゃないか。じゃ、行こうか?」

「へ?」


 情けない声をあげたおれへと、薫が視線を投げる。


「糸子さん。資料室で待ってるから」

「まさかとは思いますが、サボり?」

「どうだろう? とらえ方次第だと思うけど、嫌なら残れば?」

「行くけれども。そういう言い方ないんじゃない?」


 ちょっときつい言葉だったかもしれない。父さんに言い返せなかった鬱憤がたまりすぎていたせいだ。


 けれど、薫は気にしていない。いつも通りだ。よかった。


「どうせ進路のことで親父さんともめたんだろう? きみが弁護士になるのは、ぼくも反対だけれどね」

「なんでみんなしてっ!!」

「きみがとても素直すぎるからだよ。世の中には嘘つきが蔓延している。その嘘つきの、本当は犯罪者かもしれないのに嘘を見抜けなくて無罪にしてしまったとしたら、きみ自身が自分をゆるせなくて、気持ちが悪くなるんじゃないかっていう心配をぼくはしている」


 薫。そんな風に思っていてくれていたんだ。


「だからこそ、きみにはもう少しきみらしい場所で仕事をするといいと思うんだけれど、残念ながらぼくにはあてがなくて。ごめんよ」

「ありがとう。気持ちだけで充分だよ」


 おれは立ち上がって、ドキュメントケースを大事そうに抱えた。


 なんになるにせよ、覚悟が必要だ。そう、芝居みたいに。


「それで? 糸子さんに告白をしたのかい?」

「う? えええっ? なんで?」

「まぁ、その顔だと完全にはふられていないみたいだけれど」


 なんで全部筒抜けなんだー!!!


 つづく

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