ゲキジョウ部 〜Between that world and this world〜

第51話 はじめての電話

　家に帰ると、母さんの手伝いをしながら盗賊団のイメージを頭の中でふくらませてゆく。

　今回の『ロックンロール・ブレーメン』は、薫にしてはかなりぶっ飛んだ内容だった。

　しかもおれがニワトリの役。一番やんちゃな役だ。できるのかな？ やらなきゃ。

「それで？ 恋の方は進展があったの？」

　えへっ。母さん、それ聞いちゃう？ おれがよっぽどニヤついていたんだろう。

「ああいいわ。なんか聞かなくてもわかっちゃったから」

　そんなぁ。家の中でまで雑に扱わないでくれよぉ。

「少しでも進展があったら、次は積極的にならないとね。相手の気が変わらない前に、ね」

　いやいや。積極的って、どこまでの話よ？ おれ、昨日の今日でそんな進展求めてないんですけど。

「バカねぇ。電話くらいしなさいって言ってるのよ。教えてもらったんでしょう？ 電話番号」

「なんでわかるのっ！？」

「前から言ってるけど。あなたすぐ顔に出るのだもの。母親じゃなくてもわかりますー」

　はい、撃沈ー。それはね、努力してますよ。これからはポーカーフェイスを目指しますから。

「もう、片付けはいいから、早く電話しなさい。あまり遅い時間になると、相手の方に迷惑よ」

「はい、承知いたしました」

　それに、宿題も残っているしな。

　そんなわけで、部屋のフローリングに正座して、スマートフォンとにらめっこすること数分。やばい。湿度で汗が出てきた。

　いや、湿度のせいだけじゃないな。

　かけてもいいのかな？

　迷惑じゃないかな？

　まずはメールから、なんて回りくどいのかな？

　そもそもおれの番号教えてないから、出てくれるかもわからないし。うーん？ 痛恨のミスだぁ。

「えーい！！ かけちゃえ！！」

　やればできるの精神で、糸子さんに電話をかけると、コール三回目で出てくれた。

「あっ、あの。糸子さんですか？ おれ、山口 努です」

『知っております。薫様からいろいろと聞いておりますから』

　初めての電話での糸子さんの声は、なんだかいつもより大人びて聞こえる。くっそう。薫めぇー。なんと粋な計らいをしてくれたんだ。

『それで？ どうしたのですか？』

「そのっ、糸子さん元気かなって思って。あと、声を聞きたかっただけでそのっ。迷惑ならすぐ切りますから」

　そう言った瞬間、通話が切れた。

　糸子さんに電話を切られたー！！！

　つづく