愛と喪失と運命と出会いと その五

 糸子さんに公演の条件を伝えました。


 はざまで演じた項目は、それきり上演禁止とすること。なぜなら、それが閻魔大王様からの条件だからです。


 そして、決して緑の壁に触れないこと。


 この世界の食べ物を口にしないこと。


 わたしや閻魔大王様のことなどをあまり話さないこと。


 恋をするな、なんてとても言えませんでした。糸子さんを若返らせたのは失敗だったのかもしれません。


 ですが。糸子さんにはまだ言っていないことがあります。


 外見の若返りはしても、寿命が延びたわけではない。


 つまり、年相応の寿命だということです。


 意地悪で言わなかったわけではありません。なんとなく言いそびれてしまっていたのです。


 それに、最近の糸子さんは彼らとばかり一緒にいて、ひとりでここに来てくれないのですから、伝えようがありません。


 おそらく、糸子さんのことですから、それを言ってもこころよく受け入れてくれることでしょう。


 そうして、糸子さんが亡くなったそのあかつきには、わたしが――?


 わたしは、どうしようというつもりなのでしょうか?


 その答えは、まだわかりません。


 つづく

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