愛と喪失と運命と出会いと その二

〈なんだ!? 人間の子供など連れて来て。わしは、仏の代わりを連れて来いと言ったはずだ!〉


 閻魔大王様は顔を真っ赤にして怒っていた。


 きれいな女性は、あらあらと言って、おだやかに笑う。


〈ですからこうして、無垢な子供を連れて来たのです〉

〈なにおぅ!? 無垢だとぉ!? 人間にそんな者はおらん!! さっさとその薄汚れた子供を地獄へ連れて行け〉


 ぼくは、目を閉じた。ぼくがいなくなった世界のことを考えた。世界は、きっと、なにも変わらない。ただ、ぼくがいないだけ。ただ、それだけ。


 それなら地獄へ行ってもおなじだろう。ぼくを必要としてくれる人はいないのだから。


〈よくご覧ください。この子はこの若さにして、すでに悟りの境地を開いております。どこにも煩悩のない、この無垢な魂を地獄へ送ろうとおっしゃるのですか?〉

〈ふん。このわっぱは自分のことが嫌いで、何事にも自信が持てないただのひとりよがりだ。悟りなんてとんでもないな〉

〈でしたら。わたくしがこの子を立派な仏様へと育ててみせましょう〉


 育てる? ぼくを? こんなにみんなから嫌われているこのぼくを?


〈ふん。よかろう。だがこやつは次の仏があらわれるまでの人形に過ぎない。せいぜい無駄な教育を施すのだな〉


 そうしてぼくは、仏様になることが決まった。


 うれしくも悲しくもなかった。


 ただ、そこにいたんだ。


 つづく

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