愛と喪失と運命と出会いと その二
〈なんだ!? 人間の子供など連れて来て。わしは、仏の代わりを連れて来いと言ったはずだ!〉
閻魔大王様は顔を真っ赤にして怒っていた。
きれいな女性は、あらあらと言って、おだやかに笑う。
〈ですからこうして、無垢な子供を連れて来たのです〉
〈なにおぅ!? 無垢だとぉ!? 人間にそんな者はおらん!! さっさとその薄汚れた子供を地獄へ連れて行け〉
ぼくは、目を閉じた。ぼくがいなくなった世界のことを考えた。世界は、きっと、なにも変わらない。ただ、ぼくがいないだけ。ただ、それだけ。
それなら地獄へ行ってもおなじだろう。ぼくを必要としてくれる人はいないのだから。
〈よくご覧ください。この子はこの若さにして、すでに悟りの境地を開いております。どこにも煩悩のない、この無垢な魂を地獄へ送ろうとおっしゃるのですか?〉
〈ふん。このわっぱは自分のことが嫌いで、何事にも自信が持てないただのひとりよがりだ。悟りなんてとんでもないな〉
〈でしたら。わたくしがこの子を立派な仏様へと育ててみせましょう〉
育てる? ぼくを? こんなにみんなから嫌われているこのぼくを?
〈ふん。よかろう。だがこやつは次の仏があらわれるまでの人形に過ぎない。せいぜい無駄な教育を施すのだな〉
そうしてぼくは、仏様になることが決まった。
うれしくも悲しくもなかった。
ただ、そこにいたんだ。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます