幕間 仏様視点

愛と喪失と運命と出会いと

 ぼくは、幼い頃からひとりぼっちだった。


 母さんはいつもどこかに出かけていていなくて、お婆さんはぼくを厳しくしつけた。体罰を課してまで。


 学校に行けば、みんながぼくに意地悪をする。めかけの子だ。ケガレた子供だ。そう言って、ぼくを仲間外れにする。


 夜。誰もいない海。


 ぼくは、海の中に飲み込まれたいと何度も願った。


 海の中にはきっと、意地悪も体罰もなにもないはずだから。


 ぼくは、海の中に行きたい。


 そうして、気がついたら海の中にいた。


 冷たい水。


 黒い渦。


 こわい、こわい、こわいっ!!


 その時。海の底が明るく光ったんだ。あたたかくてやさしい光はぼくを包んだ。


〈さぁ、いらっしゃい。こわくなんてないわ〉


 その声が、人ならざる者の声だとわかったけれど、こんなにやさしく呼ばれたのははじめてのことで、あらがうことなんてできなかった。


 気づいたら、川のせせらぎ。


 見たこともないようなうつくしい女性が、ぼくをやわらかくむかえてくれる。


〈行きましょう。わたくしたちの世界へ〉


 そうして迎え入れられたのは、閻魔大王様の前だった。


 つづく

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