第48話 終幕後
「どうかな? 少しは気持ちが落ち着いた?」
資料室で芝居が始まったとあって、教室に残っていた生徒たちに見守られた中で、おれたちは清々しく演じ切った。
芝居をおえて、糸子さんの顔はおだやかに晴れているように見えた。
「はい。わたくしのために、どうもありがとうございます」
「糸子さんのためだけじゃないよ。お姉さんのためでもある。そして、仏様のためでもあるんだ」
「あーあー、くさいくさい。努からくさいセリフを聞く日がくるとは思わなかったよ」
そう言って、薫はおれの頭にチョップをした。もうなんか、おれの頭、チョップ専用みたいになってる。ギャラリーも、まだ芝居のつづきだと思っているのか、どっと笑いが起きた。そういうつもりじゃなかったんだけどなぁ。
みんな、いつかはこの学園を卒業する。高等部まで一緒のやつもいれば、その前に別れることもある。
でも、今日、この日の、この時間のことを、みんな忘れないでいてほしい。だって、みんなの笑顔はきらっきらに輝いているから。
「もう、すぐ茶化すからなぁー」
おれがぼやくも、若い女性に免疫のない野郎どもが興味深そうに糸子さんをながめている。こら、糸子さんが減ったらどうする!?
「わたくしは減ったりはいたしませんわ」
「おーい、山口。その方はきみの彼女なのか?」
おれと糸子さんが仲良く話しをしていたら、突然ギャラリーの方からお声がかかった。こんな冷やかしも男子校ならでは。でも、糸子さんには迷惑だよな。
「きみたちぃー、ここにおわす糸子さんはなぁ――」
「ぼくの姉のような方だよ」
言葉尻をちゃっかり薫に奪われてしまったおれは、歌舞伎口調で話していた手の行き場がなくなってしまう。
「なぁんだ。海原の知り合いならしょうがないよな。解散、解散ー」
みんなー? 戻っておいでー? どうしていつも、薫の知り合いだとわかると散れて行くのー?
「ま、そういうわけだからさ」
薫が晴れ晴れとした笑顔で言う。
「打ち上げにフロマージュ食べに行かない?」
それで、今日は幕引きだ。
つづく
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