兄妹劇 『青い鳥とお菓子の家』 その四

 家に帰り着いた双子のことを、ずっと心配していたお父さんが、泣きながら抱きついてきました。


 魔女の血を引く新しいお母さんは、舌打ちをしていました。おそらく、この女性も魔女かもしれない。そう思いながらもヘンゼルは、青い鳥を女性に渡します。


「お待たせしました。青い鳥です」

「あら、本当に連れてきたのね。ちっ」

「青い鳥? いったいなんの話だい?」


 お父さんは双子を抱きしめたまま、不思議そうに新しいお母さんに聞きました。


「えーい、面倒くさい!! 戸籍を手に入れるために、バカな男を利用しようとしただけなのに、なんてことっ!?」


 ついに、新しいお母さんの本音が出てしまいました。


「お父さん、この女性のことを愛しているの? 前のお母さんよりもずっと?」


 グレーテルは利発そうにお父さんにそう聞いてみました。すると、お父さんは首をかしげます。


「それが、よくわからないんだよ。母さんが亡くなってなげいていたところに、この人があらわれて、それからの記憶がほとんどないんだ」

「それは、きっと魔法を使ったからだわ。お父さん、この女は、魔女の子供よ」

「なにっ!? 本当なのか?」


 お父さんに聞かれて、女は意地悪そうに笑い出します。


「そうよ。今頃気づいても手遅れだけどね。戸籍は手に入れたし、母さんとも縁が切れたし、もうあなたも用済みだわ」


 本性をあらわした女は、魔女の姿に変わり、杖を振ろうとしました。


 そこで、ヘンゼルの方が先に杖を振ってしまいます。


「青い鳥さん、どうかヒクイドリになって、あの人を懲らしめてあげてください!!」


 青い鳥はみるみる姿を変えてヒクイドリになり、魔女の力を飲み込んでゆきます。その隙に、グレーテルが魔女の杖を折ってしまいました。


 ただの女性になってしまった元魔女は、こんなことをしてゆるさないわよっ!! と叫びますが、もう手遅れです。


「さぁ、この離婚届にサインをしてください。そうでないと、またヒクイドリをけしかけますよ!!」


 聡明なヘンゼルはすでに離婚届を用意していて、女にサインをさせてしまいました。


「さぁ、これでもうあなたに用は無くなりました。早いところ、お婆さんのところに戻ってあげるといいでしょう。ただし、少しでもうちと、うちの家族に近づけば、この青い鳥はいつでもヒクイドリへ姿を変えて、あなたたちを攻撃しますからね」


 女はボロボロの状態で、森に帰って行きました。


「思えば、あの女性も大変だったんだろうね」


 ヘンゼルが言うと、でも、とグレーテルがつづけます。


「魔法を使ってうちに入ってきたり、子供を食べようとするのはよくないことよね。お父さんもそう思うでしょう?」

「ああ、わたしはかわいい子供たちをそんな危険にさらしていたのだね。さぁ、家に入って、お前たちがどんな冒険をしてきたのか、話を聞かせておくれ」


 お父さんと双子の兄妹は、飛び跳ねるようにお父さんと手をつなぎ、家に入って行きました。


 そして、三人はしあわせに暮らしましたとさ。


 めでたし、めでたし。


〈以上を持ちまして、兄妹劇 『青い鳥とお菓子の家』は閉演となります。ご観覧ありがとうございました。また、お帰りの際はお忘れ物のなきよう、足元にお気をつけてお帰りください〉


 ※閉演ブザー


 ☆☆☆


 つづく

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