兄妹劇 『青い鳥とお菓子の家』 その三

 父さんの再婚は、最初からしくまれていたんだ。そうとわかったヘンゼルは、一度は頭に血がのぼったものの、すぐに気持ちを切り替えて、冷静になりました。


 感情のままでいては、二人とも魔女に殺されてしまうからです。それをふせぐためには。


 ヘンゼルはあわてるグレーテルに目配せします。双子だからこその意思疎通。グレーテルは、ヘンゼルがなにかきっかけを作ってくれると判断しました。


「おや。ずいぶんと聞き分けがいいねぇ。おとなしい子供は好きだよ」

「だったらひとつだけ、お願いがあります」


 ヘンゼルは、老齢の魔女をも魅了する不思議な魅力を持っていました。いわゆる、母性本能をくすぐるようなかわいらしさです。


 そのあまりにもキラキラと輝く瞳に、さすがの魔女も心をほだされたように頷きます。


「なんだい? とりあえず言ってごらん」

「ぼくたち、病気のお婆さんのために、青い鳥を探していたのです。どうせ死んじゃうのなら、最後に一目見てみたかったなぁって思って」


 そんなことかい。まるで自分の孫におねだりをされたような心地になった魔女は、魔法の杖を取り出しました。その様子に、グレーテルはその瞬間を静かに待ちます。


「どれ、いでよ、青い鳥!!」

「えいっ!!」


 青い鳥が出た瞬間、ヘンゼルは魔女の腕に噛み付きました。さすがの魔女も驚いて杖を落としてしまいました。


 そこにすかさずグレーテルが杖を拾い、呪文を唱えます。


「いでよ、ヒクイドリ!! 魔女を攻撃するのよっ!!」


 ヒクイドリとは、鳥の中で最もどう猛です。そのことを知っていたのは、貧乏なのにもかかわらず、双子の両親が一生懸命に働いたお金で、二人のためにたった一冊の百科事典を買い与えていたからでした。


 二人は毎晩、百科事典をボロボロになるまで読み込み、暗記していたのです。


 ヒクイドリは標的を魔女にさだめて、飛びかかって行きます。


「痛いっ!! ちょっと!! 杖をお返しったら」

「ごめんなさい、お婆さん。この杖少し、お借りしますね」


 えへっとグレーテルが舌を出すと、二人はあわててその場から離れます。


「また誰かが罠にかからないようにしなくちゃ」

「グレーテル、杖を貸して」


 グレーテルはヘンゼルに杖を渡します。その肩には青い鳥がちゃんと乗っていました。


「えい、お婆さんを普通のお婆さんにしてくださいっ!! 魔力がなくなったら、ヒクイドリから解放されますようにっ」


 そして、とヘンゼルはつづけます。


「お菓子の家は、本物の家になってください!!」


 本物の魔女をもとりこにしてしまったヘンゼルの魅力は杖に対しても効果的でした。禍々しいお菓子の家は、普通の家になりました。そして、ヒクイドリの攻撃を受けていたお婆さんも、無事に解放されました。


「あと、ごめんね、お婆さん。もう少しだけ動かないで。ぼくたちが見えなくなるまで」


 こうしてヘンゼルとグレーテルはまんまと青い鳥を手にし、そしてヘンゼルの後ろのポケットには魔法の杖をしのばせたまま、家に帰り着いたのでした。


 つづく

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