兄妹劇 『青い鳥とお菓子の家』 その二
二人が森をさまよっていると、急にお腹が空いてきました。飢饉のせいで、食事もろくに食べていなかったからです。
「ヘンゼル、あたしお腹すいちゃったわ」
「がまんおしよ、グレーテル。ほら、空を見上げてごらん。とてもおいしそうな雲が漂っているだろう?」
「でも、雲じゃお腹がいっぱいにならないわ」
グレーテルはシクシクと泣き始めてしまいました。
なんとしてでも青い鳥を見つけ出さなければならない。ヘンゼルは必死になって森のあちこちに目を配りますが、青い鳥はおろか、ハトすらいません。
「こまったなぁ」
おもわずヘンゼルが弱音を吐いた時です。目の前にとてもおいしそうなお菓子の家が建っているではありませんか。
「ヘンゼル、お菓子の家だわ。あたしたちが想像していたものより小さいけれど、きっとあたしたちのためにあるのよ」
グレーテルはヘンゼルの手を離して、お菓子の家へと走って行きます。
「ダメだ、グレーテル!! それは、ほかの人の家だよっ!!」
ヘンゼルは必死に止めようとしますが、空腹に耐えかねたグレーテルは聞こうともしません。すでに窓枠に手をかけたグレーテルは、その隙間から壁をはがし、食べ始めてしまいました。
「グレーテル、やめるんだ」
「だって、お腹が空いているのだもの。もし怒られたら、素直にあやまればいいわ。ほら、ヘンゼルも食べなさいよ」
「いいや、ぼくは食べない。グレーテル、話を聞いてくれ」
「そうだよ、お嬢ちゃん。お兄さんの言うことを聞いておけばよかったのにねぇ?」
その時、不気味に生ぬるい風が吹いたかと思うと、一見して魔女とわかる風貌の老婆が、ニタリと目を細めて立っていました。
「これはあたしの家だよ。器物破損はいただけないねぇ。あやまられてもゆるされないレベルの話だよ」
さすがのグレーテルも、食べていた壁を落として、ヘンゼルの背中に隠れてしまいます。
「ご、ごめんなさいっ!! 妹の罪は、兄であるぼくの罪ですっ!!」
「ヘンゼルっ!!」
兄と妹は必死に抱きあって、ゆるしを求めます。それでも魔女は、ゆるす気配を見せません。
「いいや、器物破損は立派な罪だよ。その罪は命で払ってもらおうか」
言うが早いか、魔女はヘンゼルの後ろに回り込み、彼を後ろ手で縛り上げてしまいました。あまりの素早さに驚いたグレーテルは、なにもできませんでした。
「ヘンゼル!!」
「小娘や、お前は兄さんの後でゆっくり食べさせてもらおうじゃないか。はっはっ。あたしの娘は親孝行だねぇ。貧乏な木こりのやもめ男のところに嫁に行くと言った時は、それはそれは驚いたけれど、こうして前妻の子供たちをあたしのために食べさせてくれるんだから」
魔女の言葉に息を飲んだのはヘンゼルです。すると、すべてがしくまれていたというのか。ヘンゼルは頭に血がのぼるのがわかりました。
つづく
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