第七幕 赤い靴と魔法の国
第40話 激情
その日も、雨が降っていた。教室でモブコンビと呼ばれている山田とまた明日なって言ってさようならと手を振って。
あいつと会ったのは、それが最後になった。
なんでも親父さんが病気で長期入院中だとかで、学校がおわった後、山田は商店街の総菜屋でアルバイトをしていたらしい。
根っからのお人好しだったあいつは、雨ですべった電動自転車から子供を守って、頭を強く打ち付けて、そのまま息を引き取ってしまった。
葬儀に出席したおれたちは、誰からともなくすすり泣きしながら、狭い棺桶の中でなぜか笑顔のあいつの顔を見て、どこにもぶつけることのできないいきどおりを隠せずにいた。
自転車の運転手は、飲酒運転をしていたのだ。
ここまでカードがそろってしまうと、みんなで本気で運が悪かったんだななんて、人ごとみたいに言う奴もいて、それでまた怒りが爆発しそうなおれを、薫がいさめた。
傘に落ちる雨がやたらリズミカルで、喪主のおばさんの泣き声とリンクしているように思えた。まだ幼い双子の妹たちは、たくさんの参列者を前に震え、抱き合っている。
時折、おにーちゃん、どうしておきないの? という問いに答えることは、誰にもできなかった。
おじさんは、外泊許可がおりなかったのだという。息子の葬儀に参列できない心中を察して、おれは鬱々としてしまった。
葬儀がおわった頃、会場の外で喪服姿の糸子さんが待っていた時には、嫌な予感しかしなかった。
だって山田だぜ?
あいついつも笑ってたじゃん。
そんなの、ありえないっしょ?
でも、そう、なの?
脳内ダダ漏れのおれへと、糸子さんが軽く頷く。
そんなの、嫌だ。
つづく
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