第39話 虹
元の世界に戻って来た時の、あの日の虹をおれたちはきっと忘れることはないだろう。
海を覆うようなきれいな二重の虹に見とれて、みんなしばらくぼんやりしていた。
「あ、写真、写真!!」
響が目ざとく虹の写真と、虹との自撮りと、虹とみんなとの写真を撮った。
その虹は、すぐに消えてしまったけれど、そこに存在していたことは確かだった。
「やっべ。靴がドロッドロ」
よりによって六月に入ってからおろしたばかりのシューズは泥まみれになっていた。
「まったく、余韻がだいなし」
そう言って、薫はおれの頭をチョップした。
「なぁ? 今から学校戻っても手遅れだよな? おれ、腹が痛くて調理室に行くって言ったまま出てきちまったんだよ」
「知るか。なんで保健室じゃないんだよ」
舜に冷たく言い放たれて、おれはうーんと腕を組む。
「腹痛の原因が調理室にあると思ったからとか?」
「ありえませんわ」
まだ目元がぐずついている糸子さんが、強がって見せた。
「ありがとう、糸子さん。母さんのことを助けてくれていて」
「いいのよ。わたくしも、調理場でひとり、お嬢様のお料理を作っていてさみしかったので、ちょうどいい話し相手になってくれておりましたし」
あの、それでさぁ、と薫が言いにくそうに糸子さんに問う。
「死因はなんだったんですか? 母さんの」
「長いこと胸を患っていらっしゃったのですよ。ですが、病院にかかると海原のお家に迷惑がかかるからと言って、治療を拒否しておりました。わたくしは白百合家を出た後、あなた様のお母様と共に暮らし、最後までお世話させていただきました」
「そっか。重ね重ね、ありがとう、糸子さん」
「あのさぁー?」
また場を乱すようなことを言って、本当にすまない。おれというやつは、こういう男なんだ。
「糸子さんと薫って、昔からの知り合いだったの?」
もう隠さなくてもいいじゃん? とおれが言えば、まだ教えるのは早いと薫にかわされてしまった。
「ま、いっかぁ」
だっておれたち、友だちだもんな。
つづく
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