全七編、長編劇 『コレットとエポニーヌ』 その七
警察の中も、牢屋の中も、警官と活動家が入り混ざり、ごちゃごちゃになっていました。
そんな中、牢屋で殴り合いをしている紳士と青年を見ました。コレットは自分の姿が見つからないように隠れていましたが、どう見ても紳士が一方的に殴っています。
(ああ嫌だ。警官が言うには、あの男、本当に罪人なのに、どうしてあんなに偉そうなのかしら。絶対に連れ戻されないようにしなければならないわ)
牢獄は男性と女性に分けられていましたが、牢の中にはエポニーヌがいました。
「このあばずれ!! あんたのせいで、あたしまで捕まっちゃったじゃないの。しかもあの人、あんたと結婚の約束までしてるって言うじゃない」
「それは誤解だわ。わたしは断じて彼と結婚の約束なんてしていない。あの人の勝手な妄想よ」
「うるさい!! この卑怯者!!」
そう言うなり、エポニーヌはコレットの頭を勢いよく殴りつけてしまいました。
気絶したコレットを受け止めてくれる者はなく、コンクリートの床に頭を強く打ち付けてしまったコレットは、すぐに病院に運ばれましたが、これまでのすべての記憶をなくしてしまっていました。
牢屋から解放されることが決まった青年に、紳士はコレットのことをたのみます。
「わたしはもう、長くは生きられない。きっとここで死ぬのだろう。だからお願いだ。どうかコレットのことをたのみます」
頭を下げる紳士の肩に手を置く青年は、まかせてください、と涙を流してうなずきます。
ところが、その頃とんでもないことが起きていました。
「はぁー。やっと牢屋から脱出できたわ。ありがとう、エポニーヌ」
「どういたしまして。あたしも、あなたを殴れて清々したし。それより、あの人本当にあたしがもらっちゃっていいの?」
「むしろもらっちゃってください」
なんと、コレットはエポニーヌと一芝居打って、牢獄から脱走するために嘘をついていたのでした。
そうとは知らない紳士と青年は、今度こそまんまとだまされてしまっていたのでした。
めでたし、めでたし。
〈以上を持ちまして、全七編、長編劇 『コレットとエポニーヌ』は閉演となります。ご観覧ありがとうございました。また、お帰りの際はお忘れ物のなきよう、足元にお気をつけてお帰りください〉
※閉演ブザー
☆☆☆
つづく
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