全七編、長編劇 『コレットとエポニーヌ』 その四

 紳士とコレットは、修道士が亡くなるまで、ほとんどの時間を修道院の裏方で過ごしていました。


 紳士のおかげで自由の身となれたコレットですが、これでは完全な自由とは言い切れません。


 ですが、紳士の顔色をうかがい、彼を怒らせてはならないと、必死に笑顔をつくろっていました。


 そうしてついに、修道士が亡くなり、あたらしい修道士が到着するまでの間に、二人は暗い夜道を馬車で静かに去って行きました。


 この修道院に来るまでは、自由にお話をしたり、本を読むこともなかったコレットに、紳士は熱心に日常の作法から読み書きに至るまで教えてくれました。


(そりゃそうよ。だって、この男はあたしのお母さんを殺したのだもの)


 暗い道を進みながら、コレットは冷たい想いに支配されてゆきます。


 やがて、たどり着いた一軒家で、二人は暮らすようになりました。


 年頃に成長したコレットはとてもうつくしく、紳士はますますコレットを外に出すことをためらいました。


 ですが、コレットは外に出てみたい、とようやくそれだけを言うことができました。


(断れるわけないわ。だってこの男は――)


「ああ、かわいいコレットよ。それがお前の願いなら叶えてやろう。だがいいか? 平日の昼間、一時間だけだぞ? 公園以外には行かないこと。いいかい?」


 そうして紳士はコレットに飾り模様のうつくしい腕時計をプレゼントしたのでした。


「ありがとう、お父様!! わたし、とてもうれしいわ」


(これで、外に出ることができる。そうして、うまくこの男を丸め込んで一緒に外に連れ出してやろう。どうかすれば、警官がこの男を見つけて逮捕してくれるかもしれない。そうすればわたしは完全に自由を手に入れることができるのよっ)


 大切な幼少期を薄汚れた宿屋の夫婦に粗末に扱われたせいでしょうか。コレットは年をとるにつけ、心の中がどす黒くなってゆくのでした。


 ですが、紳士を外に連れ出す前に、計算外のことが起きてしまいます。


 コレットに一目惚れをした活動家の青年に、家まで着いて来られてしまったのです。


 つづく

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