全七編、長編劇 『コレットとエポニーヌ』 その二
紳士と主人の言い合いがつづきます。
「そりゃあまあね。コレットはそりゃあ将来は美人に育ちますよ。でもね。だからと言ったらなんですが、コレットをうちのせがれと一緒にさせようと思うほど、かわいがってもいるんですよ、旦那」
この言葉に、コレットは驚いて飛び上がってしまいました。
主人のせがれは二人いて、その二人ともとても意地悪だったからです。
それに気づいた紳士は、しっかりしなさいとばかりにコレットの背中を支えてくれました。
(わぁ、はじめてあたしにやさしくしてくれる人があらわれた)
コレットは心の内で舞い上がってしまいました。でも、今度は言動に出しません。この紳士に連れて行かれるまでは、宿屋の夫婦のご機嫌を損ねないよう、人形のように動きませんでした。
やがて、紳士は法外な金額をテナルディエ夫婦に叩きつけ、半ばヤケになった様子で立ちすくんでいました。
ですが、主人もこのチャンスを逃すまいと、夫人と顔を見合わせます。これ以上金額をつりあげたら、ひょっとして紳士はコレットをあきらめてしまうかもしれない。厄介払いもできて、お金ももらえる。こんないい条件を飲まない手はない。そう決めて、紳士から金貨のたっぷり入った袋を受け取り、コレットをすぐ紳士に引き渡してしまいました。
ネズミとお別れもさせてくれないのね。そう思ったコレットでしたが、ようやくテナルディエ一家と別れることに興奮して、でも、きっと本当の淑女なら、絶対に顔に出したりしないわ、とでも言いたそうにすました顔で紳士に着いて歩きました。
あれだけの大金を持っていた紳士です。まさか、自分を粗末には扱わないだろうと思うのと反面、そうじゃなかったらどうしよう、と内面ではせめぎあっています。
「そんなにかしこまる必要はないよ」
紳士の言葉はやさしく、コレットの胸に染み渡りました。
「こんな時間だけど、パンとスープなら出してもらえるだろう」
そう言うと、紳士はコレットを馬車に乗せ、走り始めました。
つづく
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