陸田 舜視点・たのしそうだから、

 小学生の癖に、ガタイがいいと言うだけでケチをつけられる。


 昨日まで女顔のクラスメイトをからかっていた連中が、今日からおれにターゲットを変えたらしい。


「お前、オバケみたいにバカでかいよな?」

「オーバケ、怪獣!!」

「きみたちー? 今度はその子をターゲットにしたのかーい?」


 気づけば昨日のお節介が目の前に来ていた。えっと、なんて名前だったっけ?


「いくらなんでも、クラスメイトにオバケとか、怪獣とかひどくない? きみたちはモブ以下の存在なのに」


 うっと言葉がつまるクラスメイト。こいつらがモブ以下だって?


「昨日からうるさいんだよ、モブ!!」

「認めよう、おれはモブだ。そして、そんなおれ以下のきみたちはモブ以下であることをそろそろ認めたまえよ? さらにっ!! 自分たちの心の中で渦巻くモヤモヤした感情を他人にぶつけることでしか発散できない猿以下であることも認めるがいいっ!!」


 猿、以下……。


「うっ。くくっ」


 ダメだ。おれ、本当は笑い上戸なんだ。


「わ、笑ったなっ。くそっ。山口 努!! いつかお前をやり込めてみせるからなっ!!」

「それはたのしみだこと。ばーいばーい!!」


 やつらは去ったというのに、心の底から笑いがこみ上げてくる。


「きみ、大丈夫? できたらお名前うかがってもいいかい? ああ、ぼくは山口 努」

「ぶはっ!!」


 山口 努って、ある意味キラキラネームじゃないかっ!! ダメだ。笑いがこみ上げてきてとまらない。


 なのに、彼はずっと待っている。おれの名前を聞こうと、ただそれだけのために待っていてくれている。


 おれは、くっと笑いを飲み込んだ。


「陸田 舜」

「じゃあ舜くん。きみにとても大切なお願いがあるのだけれど、いいかな?」

「なに?」


 また、なにかよくないことかな?


「おれたち、王子様役を探しているんだけど、きみ、おれの王子様のイメージにぴったりなんだよね。やってもらえるかな?」


 王子様だって? このおれが?


 山口 努の背後から、昨日までいじめのターゲットにされていた空野 響が顔を覗かせる。


 さしずめ、王子様というよりはブレーメンの音楽隊みたいだな。そう言ったら、ああ、ならブレーメンもやってみるか、なんて調子のいい返事が帰ってきた。


「わかった。じゃあ、王子様をやるよ」

「やったー!! あとは脚本家だねっ!!」


 空野 響が元気よくジャンプした。この子、イメージと違って、案外活発なんだな。


 つづく

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