幕間 山口 努との出会い
空野 響視点。心の叫び
ぼくは、自分が嫌いだ。
「やーい、女!! ここ男子校だぜ?」
「出て行け、女っ!!」
昔から背が小さいから。女顔だから。言い返せないから。
だからぼくはいじめられる。
親の言いなりで男子校なんかに入るんじゃなかった。しかも小学生から大学までのエスカレーター式だなんて、地獄でしかない。
「きーみたちっ!!」
そこへ、間延びしたのんきな声が聞こえてきた。まだ小学四年生なのに、すでに声変わりの前兆がある。えっと? 誰だったっけ?
「きみたちさぁ、その子がかわいいからかまってほしくてそういうことするの、辞めた方がいいと思うよ?」
本当に誰だったっけ? たしか、クラスでも目立たないヤツ。
「なんだよ、山口 努の癖に生意気だなっ」
「おうおう、おれを山口 努と知っての愚行かっ。では、その子にかまって欲しくて意地悪していることは認めるんだな?」
「なっ? なんだよ、バーカ、バーカ!! モブキャラの癖に生意気なんだよ」
「たしかに。おれはバカでのろまで、モブ・オブ・ザ・モブなのは認めよう。そんなおれに言い逃れできないきみたちはそれ以下とみなされるが、本当のところはどうなんだ?」
ぼくを取り囲んで意地悪を言っていたクラスメイトたちの顔色がさっと青ざめる。モブキャラにモブ以下だと言われたんだ、きっとすごく驚いているはず。
「ちっ。そいつは山口にくれてやるぜ、あばよっ」
「おーい、この子はモノじゃないんだぞ? ばいばーい」
しれっと手まで振っている。こいつ、何者? えっと、山口 努だって!?
ぼくの頭の中を、ファンシーな曲が横切って行く。山口さんちの努くん?
「きみ、大丈夫? ケガはない?」
ぼんやりしていたところをモブキャラに心配されてしまった。
「ありがとう。でも大丈夫。ぼく、こーんなにかわいいから、いつもからかわれちゃっていたけど、これからはきみをぼくの一番の家来にしてあげるよ、努」
努はぽかんとしてから、やけにノリノリで笑顔を返してくる。
「やー、うれしいなぁ。おれみたいなモブが、きみみたいにキラキラした子の家来になれるなんて」
「ぼく、響。空野 響。響って呼んでもかまわないよ?」
「じゃあ響。なにして遊ぶ?」
「そうだなぁ」
ぼくは絶対誰にも秘密にしている創作ノートをカバンの中から取り出した。
「ぼくがお姫様の役をやるから、王子様を探して欲しいんだ」
「了解したっ! では、いざゆかんっ!!」
あれ? ぼくのことをバカにしないの? 努は、ぼくがお姫様をやっても、なんとも思わないの?
そっか。そうなんだ。こいつ、天然なんだな。よし、本当に一番の家来にしてやろう。
これからぼくはお姫様なんだから。
つづく
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