第24話 妻に嫌われまくった愛妻家

 説得には失敗しても、おれたちの芝居スキルは買われているそうで、今日も川のせせらぎが聞こえてきた。


 でも、ちょっと待て。これって、登山じゃないのか?


「今回も、決して結界に触れてはなりませぬよ?」


 わかってますっ。がっ。ちょっと足がガクガクする。あ、だから糸子さん杖持ってるんだ。事前情報なしだけど、おれたちは若い。だからがんばる!!


「よし、登頂!!」


 ガッツポーズをするおれを冷たい目で見つめる四人。え? だって山登りだぜ? てっぺんに着いたらこのテンションでしょ?


「努様、それではただの山登りになってしまいます。わたくしたちの目的は――」


 うん、わかった。今、目の前にいる顔色の悪いやせ形の中年男性を説得しろってことだよね?


「このお方は、奥様にとても嫌われておりました。政略結婚でしたね?」


 糸子さんは、中年男性に確認を取ると、彼はうんとひとつ頷いた。


「ですが、このお方は、奥様をとても深く愛していらっしゃいました。どんなに口汚くののしられようと、奥様が若い殿方と不貞を働こうと、責めることはありませんでした」


 ですが、と糸子さんはつづける。


「それ故、奥様からいらぬ誤解を受けてしまったのです。奥様は、自分に興味がないから叱らないのだと。外で浮気でもしているのだろうと。違うと答えてもわかってもらえず、ついに、奥様に殺害されてしまったのです」


 うわっ。なんかひどい奥様だな。おれだったら耐えられない。


「けれど、亡くなった後もこうして奥様が心配で三途の川を渡ることができないでいるのです。そうして、若かった頃、二人で登ったこの山に、ひとり待つことにしたのです」

「えーと、あの、ですねぇ」


 ちょっと話しづらいシチュエーションではあるが、これだけは確認しておかなければならない。


「もし奥様とここで再会できたとしても、ですよ? ひょっとしたらここでも奥様にしいたげられる未来しか見えないのですが?」

「ですから、皆様にお芝居をして欲しいのです。今回の演目は『舌切り雀と意地悪婆さん』ですよね」


 はい、とこれは薫が答えた。


 なんとも不憫な中年男性に、三途の川を渡っていただきたいっ!!


 これは芝居に熱が入るぜっ。


 つづく

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