第23話 喫茶店『TO-TO』
そんなこんなでいつもの喫茶店『
「陸田 舜くん、お誕生日おめでとう!!」
店員さんたちがそろってクラッカーを鳴らしてくれた。舜も含めて、まさかここまでしてくれるとは思わなかったので、おれまでドギマギしてしまう。
「ありがとうございますっ!! あ、糸子さんも。ありがとうございます」
舜はその育ちの良さで(恰幅の良さもあるけど、今回はそれじゃなくて)、みんなに笑顔を振りまいた。
普段、わりとぶっきらぼうなイメージの舜から極上の笑顔が見られて、店員さん共々、とてもしあわせな気持ちになれた。
糸子さんからは、年の数だけ本物のバラの花をもらっていて、うっかり四月一日生まれのおれはするっと誕生日がおわっていたため、軽ーくジェラシーを感じはした。が、今日は舜の日だ。手ぶらのおれが文句を言えるわけがない。
ホールでやってきたフロマージュ。何回食べても飽きないんだ。蝋燭も数字のやつで、舜はそんなに庶民派ではないのに、なんだかすごくよろこんでいた。
「うれしいなぁ。こんなにたのしい誕生日、はじめてだよ」
思えば、これまでいろいろとタイミングを外して、うっかり舜の誕生日を祝わなかったこともある。ごめんよ。小学生から一緒なのにな。
極上のケーキを切り分けてもらって、極上の紅茶に舌鼓をうった後、会計を薫にまかせておれたちは店を後にした。
もうすぐ梅雨の入りだな、なんて潮風を感じながら海沿いを歩く。糸子さんの今日のお召し物はゴシック風のドレスだった。前のゴスロリの時とちがって、少し大人っぽい。そして編み上げのロングブーツと笑顔眩しいツインテールが愛らしい。だがひとつだけ引っかかる点がある。ステッキを持っている。とてもおしゃれなやつだけど、どこかケガしたのかな?
「いいえ、わたくしはケガなどしておりませぬ。ご心配には及びませんわ」
そっか、よかった。おれやっぱり糸子さんが好きだなぁ、なんて考えていたら、今日もゆっくり緑の壁が近づいて来る。
「今回は、強欲な奥様に先立たれた男性です」
でもさぁ、糸子さん。そういう情報はどこから持ってくるんだい?
そんなことをおれが考えていたら、少しバツの悪そうな笑顔で答えてくれた。
「実は、仏様とは旧知の仲なのです」
今度は仏様に嫉妬しなくちゃならないのかよ。いや、確実に勝てる気がしないのだが。
つづく
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