第18話 とんだジョー・ディマジオ
糸子さんはますます不愉快さを募らせてゆく。そりゃあもう、かわいそうなくらいだ。
「ジョー・ディマジオとご紹介させていただきましたが、こちらは単なる趣味の草野球の補欠。そしてわたくしがお嬢様の元で働き始めてからずっと長いことお金の無心に来た者です」
さすがに、お嬢様のお屋敷からは追い払われましたが、その分、あることないこと連ねてわたくしの実家にお金の無心に来る程度の仲です。
って、そりゃあもうヒモじゃないですかー。そういうのは警察に相談しないとダメですよぅ。
「もちろん、警察にも相談させていただきましたし、この方とわたくしは一度たりともおつきあいをしたこともございません。心にやましいことを抱えている者は、パトカーを見れば逃げ去りますので、この方はやましい悪者だった模様です」
毒舌な糸子さん。でも、それだけ苦労させられたんだもんな。そりゃあ仕方ないさ。
「おうおう、言うようになったなぁ、糸子。子供の頃はそりゃあべーべー泣いてた癖に」
「それはきっと、姉の澄子と間違えていらっしゃるのではありませぬか?」
糸子さんにきつーく睨まれた老人は、一瞬考えてから、おぅ、そうだったかもな、なんて悪びれずに答える。
糸子さんは心底嫌そうな顔になって、この者がお芝居を理解できるかは存じませんが、そろそろ動かねばなりませぬ、と一息に言った。
そんなわけで、ロマンス劇『ノーマ・ジーンに惚れた男』を上演する運びとなった。
つづく
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