第10話 仏様からの条件
さて、おれたちは無駄に顔がいい。や、おれはともかくとして。ほかの三人はかなりのイケメンだ。糸子さんだって中学生くらいだけどとんでもない美少女だ。そんなおれたちがそろってなにも言わず、お互いの顔を見比べているのだから、そりゃ通りすがりの人たちから視線を浴びる。嫌でもな。だてに劇場部じゃないし。
「では少し、道を変えましょう。薫様、一度海へとご案内くださいませぬか?」
「よろこんで承りましょう」
承っちゃったよ。また糸子さんのターンだよ。もう糸子さんのペースに乗っかっちゃったよ。
この中で唯一ほとんどの視線を受けないモブキャラなおれがジタバタともがいたところで、変な奴がひとり混ざっている、程度のダメージしかない。
「さぁ、行くぞ」
なかば犯人を説得するようなスタイルで舜に肩を叩かれたんじゃ、従うしかなかった。
そしておれたちは、またしても冷たい風が吹く浜辺へとたどり着いた。今日は潮の香りが濃い。これはこの後、雨になりそうだ。
もしかしたら、この中で一番紳士かもしれない響が、ハンカチを飛ばされないよう、手で伸ばして、その上に糸子さんを座らせてあげた。
ありがとうございます。そう答えた糸子さんは、ハンカチの上に上品な仕草で腰かけた。
「仏様から承りました条件はひとつでございます。三途の川を渡ることをためらっていらっしゃる方にみな様がお芝居をしてくださるよう、とのこと。成功なされた回数分、みな様が将来極楽浄土へ参ることが確定し、そしてクリティカルヒットが出た時には、お好きな大劇場での公演をなされることをサポートすると。どうです? いいお話でございましょう?」
「たしかに。ですが糸子さん。それではもし、ぼくたちのお芝居が気に入らなくて、三途の川を渡らなかった場合はどうなってしまうのですか?」
薫は抜け目なくそこを聞いた。それなんだ、おれが聞きたかったのは。
「万が一失敗なされた時には、わたくしがひとつ年をとります。みな様にはなんのダメージもございません。ただ、以前から言っているように、どうか緑の壁の結界には、決して触れてはなりません。その時はもう、わたくしの効力はなくなり、みな様をこちらへ帰してあげることができなくなります」
ああ、それなら、と頷きかけたところで、薫が糸子さんにつめよる。
「本当にその条件でよろしいのですか? せっかく若返ったのに」
糸子さんは妙に大人びた表情で海を見つめると、ほほと笑った。
「元々老婆ですもの。なにもおそれることはありません。みな様も、どうかお気楽にお芝居をなさってください」
ただし、と糸子さんがいたずらっぽく笑った。その笑顔に、おれのハートがドキュンてなった。あー、嘘だぁーっ!! こんなの認めないぞーっ。キュンなんてしていないぞーっ。
つづく
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