フェーズ2 

モンスターを狩る者たち 1

 どこまでも広大な自然が広がる場所に私は立っていた。

 心地よい風が肌を撫でる。

 ここがどこだかわからなくても歩いた。歩かなきゃ何も始まらないから。


 ここは私が好きだった場所とよく似ている。小さいころ、海外旅行をした時、広大な自然が広がる場所が、まるで夢のようで、幻想的で、私の想像力を強く刺激して、空はキャンバスのように、雲がいろんな形を作り、思い思いの姿をしていた。

 電脳世界なのにまるで本物の世界と変わらない感覚。不思議なようで、少しずつ慣れてきたようで、でも、まだ不安はあった。



 どれほど歩いただろうか、草を踏みしめて、多少の凹凸を超えていき、まだどこかへたどり着く気配はない。


「みんなどこにいるんだろう……」


 ふと、そんな言葉が漏れた時、空から生物の鳴き声が聞こえた。突如広がる生物の声にさすがにびっくりする。空を見上げると、そこには私の数倍はある四つ足のモンスターと言える存在が飛んでいた。あの形はいわゆるドラゴンだ。


「ド、ドラゴン!? ちょっとまって! こっち来てるし!!」

 

 何かのゲームで見たようなその巨大なドラゴンは、私を見つけた途端、凄まじい勢いで急降下してきた。あんなのに捕まったら絶対に命はない。必死に逃げようとした瞬間、私は自身の足で躓きそのまま地面へと顔面から落ちた。運動神経のなさを強く呪いたくなった。

 幸いにも、私が転んだことにより、ドラゴンは私の真上をほぼ掠る勢いではあったが、触れずに通り過ぎていく。通り過ぎた際の強風は体が吹き飛ばされそうになるほどだ。


「って、戻ってきてる!?」


 今のラッキーで回避できたけど次はもうない。

 何かしないといけない。だけど、私にほかの人たちみたいな戦う手段はない。

 

「私にできること……」


 そうつぶやいた時、あの暗黒の空間で、自分の中で何かが弾けたことを思い出す。その感覚を頼りに想像を膨らませると、ペンが現れた。


「ペン……ってこれでどうすればいいの!?」


 こんなので戦ってもモンスターにかすり傷一つ与えられない。ペンは武器じゃない、書いたり描いたり表現をするものだ。……表現。もしかしたらこれで描くの?


「絵を描く……。いや、時間はない。これに賭けてみるしかない!」


 そのドラゴンの姿にはどこか既視感があった。私はゲームをよくやるほうではなかったけど、いろんな配信を見て種類だけは無駄に覚えてる。

 それに、自分が活動するにあたって、何をしようかなんていろいろと動画を見たりもした。

 そう、これはよく見たことあるゲームのドラゴン。戦うためには武器が必要だけど、迫るドラゴンに対し武器を出してもすぐには対処できない。即座に動きを止められる物……。

 記憶の中にある配信を思い出し、咄嗟に空中へとペンを走らせる。すると、空中にはキャンバスに描くように円が描かれた。


「た、確かこんなんだったはず。これでも食らえ!」


 空中に描かれた球は具現化し、立体的となり、ドラゴンの顔の直前で激しい光を放ちながら爆発した。視界を封じられたドラゴンは軌道がそれてあらぬ方向へと落下する。


「つ、次は武器を作らなきゃ!」


 急いで武器を描こうとするが、単調な剣しか咄嗟に思いつくことが出来ない。こんなもので役に立つのだろうかと思い、武器を具現化しようとしたが、すでにドラゴンは起き上がり迫ってきている。

 あまりの威圧に私はその場に止まってしまったが、その直後、どこからともなく弾丸が飛びドラゴンに直撃。ドラゴンは眠りについた。

 私は何が起こったかもわからず呆然としてその場にしゃがみこんだ。

 すると、渋い雰囲気の声が聞こえる。


「――大丈夫かい? そんな軽装でこんなとこに来るなんて随分とガッツがあるじゃないか」


 手を差し伸べてくれた男性は、全身を防具で身を包んでいる。だが、その防具の材質はドラゴンの硬質な肌とよく似ている。背中にはおそらく先ほど飛んできた弾丸を発射したであろう大型の銃、いや、大砲というほうが似つかわしいが、背中に担いでいる。

 防具に包まれた男性の手を握り、私は立ちあがった。


「あの、ありがとうございます」

「咄嗟に閃光で目くらまししたのはいい判断だ。だが、せめて武器は持ってこないとな。調査団だって普通は装備するぞ」


 ああ、やっぱりそうなんだと思った。

 ここは私が見たことのあるゲームと酷似している場所。

 おそらくこの人はハンター。ドラゴンやモンスターを狩猟することが役目の人だ。

 

「私、ここのこと全然わからなくて……」

「なんだ、迷って来たのか? どこからやってきた?」

「その、それもわからなくて……」

「記憶喪失的な奴か ?う~ん、困ったなぁ。俺はそういったことには疎いんだ。まぁ、とりあえず町まで一緒に行くとするか」


 すると、男性は紙を取り出しペンを走らせる、筒に入れて火を点けた。筒はロケット花火のように空高く飛ぶと、鳥が掴んで大型の気球のほうへと持っていった。


「観測球だ。受けた依頼を中止する時はこうやって観測球の係に手紙を飛ばすんだよ」


 ゲームの舞台裏を見ているような気分になったが、今はそれを楽しんでいる場合ではない。


「俺の名前はマックス。君はなんて名だ?」

「白彩です」

「んじゃあ、白彩。少し距離はあるがしっかりついてこいよ」


 なんとか窮地は脱したようだ。

 

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