止まらない異変
「ちょっと、止まらないってどういうことニャ」
「正確には自然には止まらないってことなのね。この本の中に以前、この世界で起きたダークマター異変の記録が書かれてあるのね」
「そんなのいつ誰が書いたニャ?」
「わかんない。だけど、ここに会ったってことは誰かが書いたったことなのね。まぁ、わたしは自分で本を調達しないから執事たちに聞いてみたけど誰も知らないみたいなのね」
その本は分厚く、重厚で、ほかの本とはどこか異質な雰囲気を帯びている。
「そこの見たことない子が外から来た子なのね?」
「あ、はい。私、葛飾玖白彩と言います」
「私はミーアなのね。ここの王女。といっても、トップは私一人なのね」
「あの、この異変に対して私はどうすればいいんですか?」
「現段階では何もできないのね。まだそのフェーズじゃない」
「フェーズ?」
「この異変にはいくつかのフェーズがあるのね。いまはフェーズ1。異変のはじまり。それを全て乗り越えない限り、ダークマター異変は止まらないのね」
本に記された記録。誰が書いたかわからないその本の中には、ダークマター異変の端的な概要となるものが書かれてある。フェーズ1はダークマターの襲来。事実上このフェーズで私たちができることはないと言う。
「ミーア先輩、ほかの人たちに連絡を取れないのは何か原因があるんですかぁ?」
「それは単純なのね。すでにほかのエリアはダークマターによって支配されたということなのね」
加速度的にその勢力を伸ばすダークマターは、私たちがいるこのエリア以外を支配したというのだ。信じがたい回答にその場にいた全員が言葉を失った。ハレルヤで異変が起きた時から、異常なことが大規模で起きているのはなんとなくわかっていたけども、実際に無慈悲な現実を突きつけられると、胸のざわめきが恐怖や不安として膨らんでいく。
「で、でも、あたしたちはここにいるニャ」
「ダークマターは直接この子を狙いたくても狙いないのね。この世界に定着させるには、中の人が一度この世界で消滅し、再構築される必要があるのね。でも、それは二度と元の世界に戻れないことを意味する。そうするために、ダークマターはほかのイマジナリーエグジスタンスを介し、この子の存在を消そうとするのね。何をしても、どこへ行こうと、イマジナリーエグジスタンスであるわたしたちは抵抗はできない。いわば、白彩ちゃんはこの世界において、いてはならない特異点なのね」
あまりにも淡々とミーアさんが言葉をつづけるものだから、スカイさんは痺れを切らして、怒鳴り気味で言った。
「あんたさ、あたしたちの大事な人たちだって巻き込まれてるんだよ。何も感じないわけ?」
「感じてるのね。でも、どうしようもない。このフェーズでは、こっちから異変に対して影響を与えることができない。そう書かれている以上、それは受け入れるしかない」
「でも! このままじっとしてたらあたしたちは何もできないまま、支配されたエリアの人たちを助け出せないまま、同じように支配されちゃうじゃない!」
「そうならないためにここへ来たわけなのね」
「どういうことよ?」
「わたしたちは何もできない。だけど、原因の中心人物である白彩ちゃんはこれから起きるフェーズ2でがんばってもらわなきゃいけないのね」
「私が……がんばるですか……」
本に書かれていたことが真実ならば、原因となった人物、すなわち今回は私だ。私は次のフェーズにおいて、やらなければけないことがあるという。
「すごく簡単に言ってしまえば、電脳世界は突如現れた白彩ちゃんに対して、過剰な防衛反応を示しているのね。人間でもあるでしょ。アナフィラキシーショック、あれと似たような現象が起きているのね」
「じゃあ、それを落ち着かせることができればいいってことですね」
「そう。だけど、最初のフェーズは何もできない。事態が全体に伝わってからがこっちのターン。異常ではないことを行動で示さなきゃいけないのね」
「それはどうやって?」
ミーアさんは私の問いかけに対し沈黙した。
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