城へ
スカイさんの空船のチェックが終わる。
結局、行く当てのない刃さんも同行することになった。本来はみんなが持っているデバイスでエリア移動が可能らしいけど、今はまったく反応しなくて、おまけに他エリアの人と連絡することもできないみたい。
「いくぞ野郎ども! 出航!!」
スカイさんの声で団員たちが声を上げ、空船はふわりと浮く。船体の両端にある棒に繋がれた羽が上下へと揺れている。いわゆるガレオン船が空に浮くなんてのはアニメかゲームでしか見たことないけど、私は今そこにいる。
現実離れした状況はここにきて最初からだけど、こうやって改めて落ち着いてみてみると、私は今とんでもない状況の渦中にいるのだと呆然としてしまう。
「大丈夫ニャか?」
「は、はい。……いや、ちょっと不安にはなってます」
「仕方ないニャよ。だって、アンタは中の人なんだから、この世界は非常識って感じでしょ」
「みなさんに会えたのはとっても嬉しいです。一ファンですから。でも、私が来たせいで迷惑をかけて、それに戻れるかもわからないので……」
すると、団員への指示を済ませたスカイさんがやってきて声をかけてくれた。
「どうせなら楽しんじゃいなよ」
「えっ?」
「こんな体験普通はできないよ」
「アンタ、テキトーなことばっか言って白彩ちゃんをいじめちゃだめニャ」
「テキトーじゃないって。戻る手段はいずれ見つけるしこの混乱も止める。だけど、今この瞬間はどうしようもないでしょう? だったら非日常を楽しまなきゃ。空はいつだって広大でどんなことでも受け止めてくれる。あたしはそんな空で生きてる。白彩ちゃんも空を楽しもうよ」
何か綺麗なことを言おうとはしていないのはわかる。本心で思ったことを、私のために話してくれてる。まだ、そらを楽しめるほど心は穏やかさを取り戻せてはいなかったけども、憧れの人たちが支えてくれるだけで、ほんの少し気持ちは楽になった。
恐れがあるとすれば、それは行く先々であの黒い球体によって支配された人たちと戦うことだ。私には力がない。頼らなければいけない。その申し訳なさと、自分もなにかしなきゃと言う思いが、リアルなシミュレーションを脳内で発生させ、恐怖になろうとしていた。
空の移動はスムーズなものだった。風は落ち着いており、天気も良好。ほどなくしてミーアさんの城が見えた。外国のファンタジー映画に見るような、硬派な雰囲気のものではなく、絵本の世界にでてくるような、ポップでファンシーと形容するのが正しい。
城の敷地上空へと空船が止まると、下では軽装な兵士が両手を振り、降りる位置を指示した。
ゆっくりと地上へと降りる空船。地上が近づくと、外壁に羽がぶつからないように徐々に内部へと収納されていく。浮力がどうなっているかなど気になってしまったけど、たぶん魔法的な何かなのだろうと納得することにした。
大きな衝撃もなく地上へと到着し、タラップのように木製の階段を地上へと下ろして、私たちは降りた。
「お待ちしておりました。ミーア姫は現在図書室で探し物をしておりますので、そちらまでご案内しますね」
兵士につれられ、私、ネコマさん、スノウさん、スカイさん、刃さんで向かった。
図書室の扉が開け中へ入ると、そこは見上げるほどの天井と、何段も積まれた本棚、少し薄暗い暖色の明かりが照らす空間。ファンタジー世界の図書館のイメージそのままだ。
「思ったより早かったのね」
可愛らしい声がどこからともなく聞こえる。
「ちょっと待つのね」
その声は上から聞こえた。すると、ゆっくりと少女が宙から降りてくる。淡く赤いふわりとした髪が揺れ、ドレスのスカートを抑え、床へと優しく着地した。手には分厚い本を一冊持っている。
「ダークマター異変について知りたくてみんな来たのね。だけど、これは止まらないのね」
特徴的な語尾が発する内容を和らげるが、異変が止まらないという事実は、非情で酷なものだった。
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