華麗なる生徒会役員たち

「あの、私たち生徒じゃないのに勝手に入っていいんでしょうか?」

「大丈夫だよ。もう連絡してるから」


 そういうと時乃さんはスマホのようなものを取り出し会話画面を見せてくれた。この端末のことは電脳デバイスAXISと言うらしい。

 そこには時乃さんの文章に対しものすごいテンションの返事があった。名前を見てみるとそれは私が知っているものだった。


「会長で月道つきみち亜歩露あぽろさんなんですか!?」

「そうだよ。もしかして亜歩露ちゃんのこと知ってるの」

「知ってるも何も時乃さんのいる事務所と亜歩露さんの事務所は界隈では二大巨頭じゃないですか!」

「そうらしいね~」


 すごいふわふわした感じ。本当に配信でみた時乃さんのまんまだ。

 

「外の世界では前にイベントでみんなとゲームで対決したりしたよ~」

「そういえばそんなことやってましたね。ジェスチャゲームとかもみましたよ」

「あれも面白かったなぁ。外の世界ではあまり一緒じゃないけどこっちでは結構お話したりするんだよ」

「こっちの世界ではみんな自由なんですね」


 おもしろいことに現実世界と電脳世界の生活は切り分けられているのに、中の人のコラボやイベント、事務所事情などはある程度把握できるいるらしい。あくまでVtuberに関してだけらしいけど。

 でも、そう考えると転生した場合ってどうなるんだろう。特に時乃さんが所属している事務所には二人ほど有名で大人気なVtuberが引退している。その上、新しい配信者、Vとして転生している。しかも、転生後も人気ですでにここに外の人が存在していてもおかしくはない。前の存在は消えてしまうのだろうか。


「白彩ちゃんどうしたの?」

「いえ、ちょっといろいろ考えてて」

「全然知らない場所だと不安もあるよね。でも、安心して。白彩ちゃんが戻れるように私頑張るからっ!」

 

 さすが初期メンバーでありつつ清楚代表。私を励ましてくれるなんて優しい。

 

 生徒会室の扉を開けると、そこには机に肘をついて手を組みつつじっとこちらを睨む女性がいた。それこそが時乃さんが所属してる事務所と二大巨頭である事務所の初期メンバー、月道亜歩露さんだ。

 周りには書記を務めるおしとやかでクールな女性と髪を一つ結びにした堂々と立つ女性。けいらんさんと野口のぐち紅葉もみじさんだ。


「は、はじめまして。葛飾玖白彩です」

わたくしはこの学校の生徒会長月道亜歩露。あなたが現実世界から来た中の人というのは本当かしら?」

「は、はい。配信を切り忘れた状態で居眠りをしたらこっちに来ちゃって……」


 なんだか配信の亜歩露さんの雰囲気とは全然違う。とてもクールで鋭い目。体が自然にこわばってしまう。


「亜歩露ちゃん何してるの? いつもはもっとフランクな感じでしょ」

「もうっ! こういうのは雰囲気が大事なんですからそういうこと言っちゃだめですよっ!」

「……えっ?」


 すると、左右の二人も噴き出して笑い始めた。


「いやぁ~ごめんごめん。急に亜歩露が威厳がある感じで初対面は決めたいっていうからさ。でも、ここまで真面目な雰囲気が似合っとらんとかさすがに笑うって」

「ふふっ、やっぱ亜歩露ちゃんはちょっと間抜けなぐらいがちょうどいいんだよ」

「乱先輩それってどういうことですか! 私だっていい感じで決めるし」

「いい感じってなんなん?」

「いや、ほら、なんかこう……碇ゲ〇ドウみたいな」

「それ嫌われる奴だからやめときな~」


 違うかと思ったけどやっぱり配信の時と同じ雰囲気だ。この三人は事務所の初期メンバーで生徒会三人組と括られるほど仲が良く、生活感駄々洩れの配信をしたりと結構自由な三人だ。それぞれ個性的で現実世界でもよくあったりするらしい。


「改めて、私は月道亜歩露ですわ」

「私は京乱」

「ウチは野口紅葉」

「あなたが困っているということは時乃さんから聞いているわ。粗方の事情もね」


 なんとなくだけど亜歩露さんが時乃さんに目で何かをしてい伝えようとしてい気がした。それは決していい雰囲気のものではないようにも思えた。それに気づいたのか紅葉さんは私に気づかせないようにか、近づいてきて言った。


「そうだ、白彩ちゃんはここのことまだあんまり知らんのやろ。ウチと乱先輩で紹介してあげるよ」

「そうね。いつまでここにいるかわからないけど知っておいて損はないから。ほら、こっちだよ」


 乱さんに手を引っ張られデータ室へと連れて行かれた。

 

 データ室は部屋の中央に胸ほどの高さの卓があり、そこにある球状のディスプレイに触れると画面が空間に現れる。


「ここに映ってんのがハレルヤ。今ウチらがいる場所やね」

「こっちのビヨンドシティってのはなんですか?」

「それは私たちよりも以前に現実世界で名を馳せて活躍した人たちによって形成されたエリアだよ」


 都市の看板などやモニターなどにはこの界隈の四天王と言われる五人の姿が載っていた。五人なのに四天王と言われているのは優劣が付けられなかったことが起因している。


「え、じゃあこの人たちもこの世界にいるんですね」

「そうだよ」

「でも、ヒカリノゾミさんは現実世界で休止してからこっちでも休止してる。いろいろあったみたいだしこの世界全体を安定させた人だから、私たちには想像できないくらいのプレッシャーやストレスがあっただろうから仕方ないけど」


 ヒカリノゾミさんは今年の二月から活動を休止したV界隈では古参の存在だ。そのあとに続きVtuberという存在の知名度を上げた人たちもいるが、この人の諦めずに続けた姿勢こそが後発のVtuberに夢を与えた。

 炎上やトラブルがあってもなんとか続けてきたけど、惜しまれつつも休止したのはまだ鮮明に覚えている。


「基本的にエリアごとに存在する人たちはそのエリアで過ごすけど、ウチらみたいに中の人が意欲的に活動しているとこのAXISでゲート繋げて移動することができるんよ」

「もし、中の人が休止したり、やめちゃったりしたらどうなるんですか?」

「ほかのエリアには行けない。この場所に実質的に閉じ込められる形になる。それに、完全に電脳世界からデータがなくなってしまうとその存在はいなくなっちゃう」

「それは悲しいですね」

「まぁね。元は作られたとはいえここに居る限りウチらも一人の存在。でもな、外の人たちが忘れない限りは大丈夫。誰かが覚えている限りは消えたりはしない」

「私たちに詳しい白彩ちゃんなら、私たちの中の人の事務所や時乃さんと同じ事務所からいなくなった人たちがいるのは知ってるでしょ。その子たちだってこの世界にまだいるから」


 人気を博したあとにやめた人たちには何かと黒いうわさが立つ。惜しまれながらもやめることになってしまった人、様々な事情により解雇になってしまった人。それに、デビュー寸前やデビュー直後にやめてしまった人。そういう人たちもこの世界にはいるらしく、交流はできるという。

 でも、デビュー直後となればファンが少ないということもありやはり消えてしまうのだろう。もし、消えると分かった時その子はどんな気持ちなんだろう。中の人のいわゆるロールプレイ、キャラ設定などが繁栄されている以上割り切りができたりするのだろうか。

 いや、そんなことはない。だって、中の人は中の人で、外の人は外の人で、それぞれ自由に過ごしているのなら、中の人の影響で存在がなくなってしまうのはとてもつらいことだろう。

 私がもし人気になって白彩という存在がこの世界で独り歩きしたと考えると、容易にやめたり問題を起こしたりはできない。そういう意味では中の人はこの世界のことをしらないほうがいいのかもしれない


「私以外にもこの世界に来た人はいるんですか?」

「一応あるらしんやけどウチらは詳しく知らないしここのデータにも載ってないんよ。あくまでここにあるデータはこの世界で公にされているもんだけ。歴史とかってのはまた別のところだから」

「それこそビヨンドシティにあるかもね。あそこは過去を残し未来につなぐ場所だから」

「じゃあ、そこに行けばいいんですね」

「でも、あそこに行くには四天王の承認がいるんよ。その内の二人は休止で二人は中にいるけどウチらは連絡先をしらない。もう一人はどこかにいるらしいけど詳細は不明」

「難しいですね……」


 すると、突如放送が流れた。

 

「校内に残っている全生徒はただちに下校してください。部活生徒、風紀委員会、生徒会も下校をお願いします」


 その声は息を切らしており慌てているのが伝わる。何度も同じように繰り返し早急にこの場を離れなければいけないという危機感がわかる。


「なんやろか」

「まずは亜歩露ちゃんのところに戻りましょう」


 二人の下へ戻ると神妙な顔でこっちを見ていた。


「亜歩露、今の放送聞いたか?」

「えぇ、ばっちりと。もしやとは思っていたけどまさか本当に発生するなんて」

「あれは噂やなかったんか」

「発生しているということは事実ということね。私と時乃さんで白彩ちゃんを逃がすから二人はほかのこたちに連絡を取って」

「ちょ、ちょっと待ってください! 一体何が起こってるんですか」


 亜歩露はAXISを開き映像を宙へ投影する。そこに映るのは一般人が撮影した映像だった。どす黒いオーラを放つ謎の球体が何かを求めるように人を吸収していく。


「な、なんですかこれ……」

「詳しいことは私たちもわからないわ。でも、以前この世界に中の人が来た時、ダークマターと言われる謎の存在が現れ電脳世界を混沌に導いたと言われている。都市伝説として一枚だけ写真が公開されていたけど、それとそっくりなの。おそらくこれがダークマター」

「これは何を目的としてるんですか」

「一説としては入りこんだ中の人の排除。電脳世界の意思とも言われているわ」

 

 私がこの世界にきてしまったせいで平穏を崩してしまった。

 

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