第15話

「大規模魔法? それは何ですか?」


「人間が〈聖母の丘〉と呼ぶこの地に、石の町をこしらえるでござる。この地は2つの〈龍脈〉が交差する地なので、大規模な〈土魔法〉が使えるでござ候」


 〈龍脈〉という言葉には礼治郎は聞き覚えがあった。確か地下を流れるエネルギーのことで、西洋ではレイラインと呼ばれるものであるはずだった。元々は道教の風水の概念のはずだ。オカルト好きの友人がパワースポットのマニアで、そんな話を礼治郎は聞かされていた。

 礼治郎はヴァラステウスに問う。


「え~と、つまり、その魔法でここにいる人たちの仮住まいが確保できるかも、という話ですか?」


「左様。普通では成し遂げられるものではござらぬが、〈龍脈〉を解放する竜王の力を借りれば、石の町をこしらえることは造作もござらん」


「ああ、テンジンさんの協力が必要なんですね」


 礼治郎は単純に、妖精王と竜王がタッグを組まなければできない大魔法であるということに興味を持つ。


「仮住まいができるならば是非とも、こちらこそお願いします」


 と礼治郎が答えると、ウィンドウが開く。 


 魔力を譲渡し、ヴァラステウスの魔法〈石町建設〉の行使を許可しますか? Yes/No


 「Yes」を選択すると、礼治郎は体から大量に魔力が消えるのがわかった。凡そ、残っていた魔力のほとんどが消えたように感じる。


 ヴァラステウスはその端正な顔に真剣な表情を浮かべ、離れて座るテンジンに語り掛ける。


「テンジン、龍穴の解放を頼み申す!」


 テンジンがふんと鼻を鳴らすと、左掌を地面に押し付ける。


「面倒だのぅ。今回は貸しだでぇ?」


 そういった途端に、周囲に衝撃が走る。足元から凄まじい力がこみ上げてきた。難民たちが一応に悲鳴を口にする。


「レイジロー、丘から皆を一時退避させよ。〈支店召喚〉も一旦消すのでござる」


 ヴァラステウスの要求に礼治郎は従う。


「了解、〈ラッキースター〉回収! みんな、一時丘から離れて! 大きな魔法を使います!」


 難民たちは一斉に動き出す。〈ラッキースター〉の商品を食べた者は例外なく、礼治郎に〈使役化〉されていたので、提言に素直に従う。

 事態がわからず、移動できない幼児もいたが、ナフィードが魔法で残らず宙に浮かべて運び出す。

 ナフィードさんナイス! ――と礼治郎は思ったが、相変わらずナフィードはウィスキーをラッパ飲みしながら魔法を使っているのに気づき、少し落胆する。

 〈石町建設〉が正確になんであるかはわからないが、礼治郎はかなり面白いことが起きるだろうと予想した。


 確かエーゲ海に白い素敵な街があったな。サントリーニ島のイアだっけ? あんな感じだといいな~。


 丘全体が振動する中、ついに目に見えた変化が起きる。

 地面から2階建ての石でできた建物が次々と出現する。石の建物は凡そ10メートル間隔で出現し続け、礼治郎が数えただけでも50以上を超える。


「すげ~!!! そ、想像より全然激しい~!!!」

 

 石の建物の間にも石の道が出現して繋がっていく。道以外も排水溝のような石の窪みが連続して発生して伸びていく。

 さらにビルの五階建てに相当するような石の塔が3つほど地面から現れ、そそり立つ。

 次に建築物を覆うように塀が地中から次々とそそり立っていく。高さ4メートルはあろう大きな壁が、隙間なく広域を囲むように展開していった。

 建築会社のCMで、CGで次々と家とビルが地中から出現して、町が形成されるものを観たことがあるが、まるで同じだと礼治郎は思った。


「も、物凄いな……これが魔法とか――ぶっ飛んでいる」


 礼治郎は石でできたかまくらの様なものが複数できるのではないかと思っていたが、行使された〈石町建設〉は本当に瞬時に町を作り出していた。

 奇跡のような石の魔法は10分ほどで終焉し、辺りは静寂に包まれた。

 見ると魔法を行使したヴァラステウスが倒れているのが目に入る。


「ヴァラステウスさん! どうしました、しっかりしてください!」


 礼治郎は慌てて駆け寄ると、ヴァラステウスは呼吸は荒いが、微笑んで、満足げだった。


「かたじけないが、サラダをいただけないか? 体のすべての力を魔力に変えてしまい、それがし、腹ペコでござる……」


「待ってください!」


 礼治郎は再び〈支店召喚〉で〈ラッキースター〉を出すと、サラダとレタスなどの生野菜をありったけ購入する。ついでにドレッシングもいくつか買う。

 ヴァラステウスはサラダと生野菜と水のペットボトルを渡すと、ガツガツと食らい始める。

 サラダ8つ、トマト13個、レタス3玉、キュウリ6本を食べ終えたところで、礼治郎は尋ねる。


「それで、町は、魔法は完結したのですか? もうあそこに入っていいんですか?」


 そう尋ねると、妖精王は枝角を大きく縦に振って、力強く頷く。


「問題ござらん。いやはや500年構想の魔術であったが、成就できて感無量! おっと、あいすまぬが水回りは明日になると断っておくでござる」


 なんとも晴れ晴れとしたヴァラステウスの笑顔に、礼治郎も笑顔を浮かべる。

 近くに来た魔王ナフィードは感慨深い表情で、つぶやく。


「何百年も聞かされてきたが、まさかこの規模にして精密な町が形成するとは尊敬に値するである。精霊魔法、まさに天晴れである」


 礼治郎は町を見てから振り返り、300人の難民に大声を発する。


「皆さん! ヴァラステウスさんが作ってくれた石の家、住めるそうです! 水飲み場とかは明日になりますけど、ここで今日は過ごしましょう!」


 そういうと、一旦は距離を開けた難民たちがゆっくり集まり始める。

 そして誰かが、「早い者勝ちらしいぞ」というと、一斉に町の中に向かって走り出した。

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