第4話
260時間ほど礼治郎は一歩も先に進まず、魔法〈支店召喚〉に集中して取り組むと、色々なことが理解できた。
まずは〈支店召喚〉は一日一回魔力を消費するだけで、自由に出現・回収を何度でもできるのがわかった。
次に魔法のレベルアップに払う魔力は、分割で納めても問題がないことがわかる。自分の総魔力量上回る400を要求されても二日に分けて支払うことが可能だった。
〈支店召喚〉5レベルアップでイートインコーナーができ、充電コンセントが発生。礼治郎はそこで3か月ぶりにスマホを充電すると、Wifiが飛んでいるのを知る。
「やった! 前の世界に連絡できる!」
と小躍りしたが、電波は極めて微弱だった。2時間かけて検索サイトを開くのがやっとという体たらくだ。
ほかに判明したのは、レベルアップは店舗の施設が充実するだけではないということだ。レベルアップする度に、店内の商品のクオリティが上がってきていることが実感できた。
また、礼治郎のスマホに見たことがないアプリがダウンロードされていた。レベルアップに伴う効果のようだったが、礼治郎には具体的なことは何もわからない。
〈換金〉という名のアプリは開くと様々なものが換金できるようになっていたのだ。
換えられるのは、〈円〉〈魔力〉〈金〉〈魔石〉である。
つまり礼治郎の手持ちの金が尽きても、〈魔力〉をアプリで〈円〉に換えると、スマホでレジ清算ができるようになったのだ。
しかも〈魔力〉1に対して、〈円〉は500というレート。
現在、魔力が382で、一日でほぼ魔力を回復する礼治郎は200魔力をひいても、9万円分の〈円〉を手にできるのだ。
「豪遊し放題だ! 9万なんか1日で使いきれないぞ!」
礼治郎は有頂天になってはしゃいだ。
実際、魔力を全部〈円〉に換金しては立ち行かないのだが、毎日ビールを4本、食いきれないほどの弁当を並べて食べるだけなので不自由ではない。
〈支店召喚〉の魔力コスト200も今の自分ならば余裕だと思える。
一時間で6魔力消費、8時間でも48魔力消費ならば問題にならない。
しかも〈ラッキースター〉のWifiが届く範囲、全経20メートルの中は、礼治郎の魔法の威力が倍になるのが判明した。
一度、熊のような顔をした、鹿に似た肢体をもつモンスターが〈ラッキースター〉に襲来した時に、それが確認できた。
礼治郎が熊鹿と名付けたそのモンスターは、〈ラッキースター〉の入り口に立った礼治郎が放った火の塊を受け、一気に燃えて倒れたのだ。
「う、嘘だろう……。不自然なほど威力が上がってる」
一発で中型バイク大の生物を葬ったことに、礼治郎は震えた。驚きながらも魔石の回収はきっちり行う。
熊鹿の〈魔石〉を、〈円〉に換えると4万8千円になった。
「やった! 〈ラッキースター〉出しっぱなしで、やって来るモンスターを倒せば、金が貯まるし、〈
礼治郎は暢気にそういい、〈ラッキースター〉の入口の前で、〈防御〉でクッションを作り、横になってさらに20時間過ごした。
「〈ラッキースター〉内の雑誌もあらかた読んだなー」
コンビニ生活を満喫する礼治郎は、店内の雑誌をお菓子を食べながら片っ端から読んでいた。
一番熱心に読んだのは「実践! 解体ジビエ野郎」という漫画だった。実在する田舎暮らしをしている人のグルメものだったが、驚いたのは肉と野菜は自分の所有する山で全て手に入れているというところだった。
特に熱心に読んだのは猪や鹿の解体シーンである。
魔獣解体を考えていた礼治郎は、立ち読みではなく「実践! 解体ジビエ野郎」を購入した。
緊張感なく、漫画雑誌を読みながら、ざるそばを食べていると、ふと、コマンドウィンドウ〈ラッキースター〉の三つ目の項目のことを思い出す。
三つ目の項目は「REVENUE 1500/0.2」であったが、現在は「REVENUE 1500/7」になっている。
突然、礼治郎の背筋に嫌な予感が走る。
「この数字、ま、まさか――」
コンビニエンスストアには目標月間売上高1500万円という目安がある。月に売上高1500万円あれば営業が継続できるという指数だ。
三つ目の項目の「REVENUE 1500/0」が月間売上高を指しているならば、今月は礼治郎の使った7万円しか売り上げがないことになる。
月に売上高1500万円など、礼治郎の魔力を全部投入しても、完全に到達できない数字だ。
代打的に店長を務めた礼治郎も、この目標月間売上高に毎月苦しめられていた。
「
「そ、そうか――目標月間売上高を、何とかしないと、おそらく〈支店召喚〉でもう〈ラッキースター〉が出せなくなる!」
リアルに考えれば5か月ぐらいならば目標月間売上高未達成でも何とかなるが、暢気に構えてはいられない。
「何とか、〈魔力〉、〈金〉、〈魔石〉が大量に入手できるようにしないと! せっかくの〈ラッキースター〉が消えてしまう!」
我ながら悲痛に響く声を、礼治郎は張り上げた。
ここに漠然といては、〈ラッキースター〉を失うしかない。
それは今の礼治郎にとって希望を失うのに等しい。
礼治郎は〈ラッキースター〉を閉じると、11日ぶりに歩き出したのだった。
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