第15話 クロぼうが明日香に囁く その2(明日香視点)
「ネコ? どこから入ってきたの? というか、順序が違う!! ネコがしゃべった!!」
「ネコじゃないよ。夢魔の『クロぼう』だよ」
「クロ……ぼう……?」
「そうだよ。夢魔だよ」
「妄想かしら? ちょっと……ひとりでしすぎかしら……」
うーんと、少し鬱になって自己嫌悪におちいりかける。
「妄想でも幻覚でもないよ。ボクは『夢魔』なんだ!」
クロぼうと名乗ったネコが、その私の自責を否定した。
「夢魔は異世界からの使者。魂をウバウのがボクの仕事でね」
「で……。その『夢魔』さんが私に何の用? 私の魂を取りに来たってこと?」
「違うんだ。実は高一郎クンにはボクが呪いをかけていてね。高一郎クン、キミとエッチするとしんじゃうんだ」
「え?」
「だから高一郎クン、死んじゃうんだ!」
「なっ……!」
目の前のクロねこが日本語をしゃべっているのがあらためて驚き。しかしそれよりもなによりも、そのクロぼうとやらが話した事実が、私にとっては驚天動地の事実だった。
「高一郎クンも、物凄くガマンしてるよ。苦しそうだからね、助けてあげてよ」
クロぼうが「ほら。見てごらん」と私に空間を指し示す。
その空間に、ぼんやりと映像がうつし出される。
高一郎の自室だった。
その高一郎は椅子の上。そして……荒い息、乱れた呼吸。
高一郎が……机上のスマホ画像を見て私の名前を呼びながら……それはそれは激しくひとりで『してる』姿だった。
私の体操服の、それもピンボケ画像なんだけど、でもものすごくそれに集中して夢中になって。
見ている私が恥ずかしくなるほど興奮しまくって。
私は素直に感動してた。
高一郎が私の画像でしてくれてるのが嬉しかった。
ものすごく嬉しくて、泣きそうになってるくらい。
ぐっと拳を握る。
やっぱり高一郎も私のことが好きなんじゃない! と歓喜のガッツポーズ。
本当に本当に、高一郎が言った通りに『理由』があって。
私の事を嫌っているわけじゃなくて。
その証拠を目の前にして、自信が事実に変わる。
再度、ぐっと勝利の拳を握る。
「ね。高一郎クン、呪いのせいでキミとは出来ないけど、キミが高一郎クンのつらさを救ってあげることはできると思うんだ」
私は、そのクロぼうを見る。
アルカイックなスマイルで本心は見えない。
私はたずねた。
「なんで……その『呪い』をかけたアナタが……高一郎を助けようとするの?」
「なんというのかな。ボクもシゴトだから呪いをかけたけど、高一郎クンに苦しんで欲しいわけじゃないんだ。言ってみれば、オヤゴコロみたいなものかな?」
「…………」
納得はしなかった。でもこの喋るネコと、今見えている映像は否定できない。
高一郎は、このクロぼうとその呪いを信じたのだ。
なるほど。高一郎の立場というか、置かれた状況はわかった。
それなら……
私にもできることがある。
曇った空に晴れ間が見えた――気がする。
頑張ろう。
ひとりで、私の名を呼びながら『続けている』高一郎を見ながら、私は自分の心を固める。
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