閑話 クロぼうに聞く

 夜。


 俺は自室のベッドで仰向けに休んでいた。


 明日香とはぎこちなさが続いている。他方、一葉ちゃんの誘惑は断り続けているが、その攻撃がやむ気配はない。


 俺の理性も限界に近く、一葉ちゃんの攻めをいつまで受けきれるか、正直自信はない。


 さすがにやり切れなくなって、俺は足元で丸まっているクロぼうに言葉をぶつけた。


「お前。いい加減に呪い解けよっ!」


「解けないよ。一度かけると、ボクでも解けないから」


「ぶざけるなーーーーーーっ!!」


 俺は起き上がって、クロぼうをにらみつけた。


「いったい何なんだ、お前はっ! 夢魔っ! なんだそれいい加減にしろっ! シャミセンにするぞっ!」


「ボクは夢魔でネコじゃないから三味線にはならないよ」


「なんとかならんのかっ!」


「なんでボクに仕事を放棄するように言うのかな?」


 ぐぬぬ……と拳を握りしめる。


 どうしてくれようか、このクソ猫。


 このクソ猫のせいで俺は両想いの明日香とデキなくて……


 いや。今日の目的はそこじゃない。こいつに確認しなくちゃならんことがあったと思い直す。


 はーはーぜーぜーと深呼吸をして、怒りを抑えてからクロぼうに質問した。


「なあ。明日香と『する』と、俺、死んじゃうんだよな?」


「うん。しんじゃうよ。そして魂はボクのモノ。だから早く明日香ちゃんとシテよ」


「ヘンなこと聞くようだが……」


「うんうん」


「その……い、『入れたら』……そのままお陀仏……なのか……?」


「違うよ。ちゃんと最後までできるよ。だけど……」


「だけど?」


「めいっぱい楽しんだあと、意識が遠くなってそのままだよ」


「それで魂はお前のモノで地獄行きか?」


「うん。それが目的だからね。ボクはその魂を異世界に持っていくのが仕事なんだ。この人間界から異世界へ魂運ぶのがボクのシゴト。最近だと異世界転移とも言うかな? 異世界はヒトが足りないからね」


「なら!! それほど気にしなくてもいいのか!?」


「気にしないヒトは気にしないけど、人間界のコイビトとはそれっきりで今生の別れだよ」


「……………」


「ちなみに、明日香ちゃん以外とシテもしなないよ」


「…………」


「さらに言うと、ボクは今まで何百人にも呪いをかけてきたけど、お目当てのお相手とスルの我慢できたヒト、いないよ。高一郎クンの場合は明日香ちゃんだね。そういうヒトを狙って呪いをかけてるからね」


 ぐぬぬ……と、再び唇を噛みしめる。


 やはりこいつは早めにシャミセンにしないとダメかもしれない……と心を燃やしながら、俺の夜は更けてゆくのであった。

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