第13話 明日香VS一葉 再び(明日香視点)

「クシュンッ!」


「会長、風邪ですか?」


「いえ……」


 私、森野明日香は、生徒会室で事務処理を行っていた。


 陽はとうに暮れている。放課後、この作業を始めてから、ちりちりと身を焼くような焦燥を感じていて、作業に身が入らない。


「ううう……」


「会長? 貧乏ゆすりなんて、男子が見てたら驚きますよ?」


「うがーーーーーーっ!!」


 私はたまらず吠えた。


「我慢効かない! ちょっと留守にする!」


「はいどうぞ」


 従順な副会長女生徒が返答し、私は廊下に跳び出した。そのまま図書室に向かって全速力でダッシュする。


「バタンッ」


 図書室の扉を開くと、一葉が私の事を待ち受けていた。


「遅かったですね、会長」


「クズ葉ッ! 高一郎は無事なんでしょうねっ!」


 クズ葉……後鳥羽一葉はくくっと不敵に笑って私を挑発してきた。


「さあ、どうでしょうか?」


「クズ葉ぁ!!」


「ふふっ。先輩の初めて。美味しかったです」


「まさかっ!!」


「そのまさか……です。先輩、会長とできなくて溜まってたようで、私の事、凄く激しく求めてくれました……。私ももう、我を忘れて無我夢中で腰を振ってしまって……」


 クズ葉が頬をぽっと染め、恥ずかしいという様子で顔をそらす。のち、私に向き直って言い放つ。


「言っておきますけど、私と先輩の合意の元の行為です。会長にとやかく言われる筋合いはありません」


「…………」


 私は呆然と……恥ずかしいながらも満足だという様子の一葉を……見つめて……


 頭が真っ白になって……


「というのは冗談ですが……」


「え?」


「というのは冗談なのですが……」


「……ほん……とに……冗談なの……」


「ええ。先輩を問い詰めればバレることですから。先輩を愛してはいますが、先輩には嘘をつきとおす甲斐性はありませんので」


「はあーーーーーーっ!!」


 私は大きく息をついた。


 驚いたーっ!!


 腰が抜けるかと思った!!


「驚きましたか? そして安心しましたか? 会長」


「クズ……葉ぁぁぁぁぁぁ!!」


 私は怒りに我を忘れそうになる。


「ふふっ。先輩には、会長とでは幸せになれない理由があるんです」


「……?」


「もう一度いいます。先輩には、会長とは結ばれない理由があるんです。そして、私はその先輩の身も心も満たしてあげられます」


「クズ……葉……」


 クズ葉の言っている事はわからない。


 でも一つだけ確かな事。


 このクズ葉と私は並び立たない。


 私とクズ葉は、日の暮れた誰もいない放課後の図書室で、互いににらみ合っている。

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