第10話 対決(明日香視点)

「後鳥羽さん」


 私の尖った声に、後ろ向きで作業をしていた後鳥羽一葉が振りむく。


「…………」


 私は仁王立ちでにらみつけるが、この女、後鳥羽一葉がたじろぐ様子は見られない。


「なにかお探しでしょうか?」


 にこりと、私に微笑む一葉。


 私は、容赦する必要も感じなかったので単刀直入に言い放った。


「私の高一郎にちょっかいかけないでくれる」


「はい……?」


 一葉は小首を傾げて私の言葉がわからないという仕草。


「私のことは知ってるわよね」


「知ってます。学園一の有名人。会長の森野明日香さん……です」


「で。私が高一郎と付き合っているのも知ってるわよね。校内では有名な関係だから」


「ええ。知ってます」


「なら話は早いわ。貴女! さっき、『私の恋人』の高一郎にちょっかい出してたでしょ!」


「はい。高一郎さんに告白しました」


 ニコリと、また可愛らしく微笑む一葉。私の言葉を気にしている、あるいはダメージを受けている様子が全く見られない。


 私は苛立って自然と声が大きくなる。


「泥棒ネコみたいな事、やめてくれる。自分で恥ずかしいとか、思わないの?」


「全く思いません」


 見かけは清楚ではかなげで守ってあげたくなる様な女の子の一葉は、欠片もたじろがずに答えてきた。


「私にも私の想いがあります。その想いを高一郎さんに伝えるのは私の自由です。そして、誰を選んでどうするかは、高一郎さんが決める事です」


「むきーーーーーーっ!!」


 思わず叫んでしまった。


 なんという厚かましさ。厚顔無恥というか、他の女のオトコに手を出して、あまつさえそれを正当化する言動。


「許すまじ、後鳥羽一葉!」


「……」


「どうしてくれようか、この女!」


「あの……」


「なによっ!」


「心の声。出ちゃってますよ」


「……え?」


「私は気にしてませんが、さっきから、思っていることが駄々洩れなんですが」


 かぁぁっと、私は自分の顔が羞恥と怒りで赤くなったのがわかった。


 許すまじ! と、今度は心の中で声にして、拳を握る。


 そして私は息を大きく吸ってから、言葉を投げつけた。


「私と高一郎は、それはもう深く分かり合っている仲で、男と女の仲なのっ! すること全てやっちゃってるの!! 最後まで行っちゃってるのっ!!!」


 どうだっ!


 言ってやった言ってやった!


 ふふんと鼻を鳴らして一葉を見やる。


 が、一葉は私の想像を超えて、不敵な答えを返してきた。


「生徒会長さん。学園一の美少女で優等生ということでしたが……。ネコかぶってましたね」


「それが何か? 私と高一郎の関係の深さが解った? 貴女の出る幕はないの。高一郎と私は、心もカラダもぐちゃぐちゃに重ね合ってる仲なのっ! 高一郎に告白するという段階の貴女が出る場面じゃないのっ!!」


 どうだっ!


 今度は言い返せまいっ!!


 だが、一葉は意にしていないという表情で返してきた。


「女同士だと遠慮がなくて、かぶってるネコ、あっさりかなぐり捨てますね」


 言った後、一葉はじーっと私の顔を見つめてきた。


 そして……


 びしっと私の事を指さして、決め台詞と言わんばかりに言い放ってきた。


「嘘ですねっ!」

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