第9話 明日香、目撃していた(明日香視点)

 放課後。


 私、森野明日香は、高一郎の後をつけていた。


 きのう私の部屋で、高一郎は最後の一線を越えるという場面で、私を拒んだ。


 ありえないと思った。


 高一郎とは小さい頃からの幼馴染で、互いの良し悪しも分かり合った仲。


 そして高一郎は思春期真っただ中の男子でもある。


 ありえない!


 女子の私でも……年頃だと、こんなにも自分の性欲に振り回されているというのに、男子の高一郎がエッチを避けるとか……ない。ありえない。


 何かある。絶対、何かある。そう確信して高一郎の後をつけていたのだ。


 そして、図書室の本棚のかげから盗み見していて目撃してしまった!


 高一郎の浮気現場を!


 やっぱり!


 私との、やっとのやっとでたどり着いたエッチを拒むなんて何か理由があるとは思っていたけど!


 高一郎が去った後、図書室の本棚から高一郎と抱き合っていた女を見やる。


 背は高くないが、目鼻立ちの整った、大人しそうで男の庇護欲をあおるような女。


 あの間女!


 許さない!


 高一郎と長年連れ添って。デートも沢山して分かり合って。やっとやっと一つになれるという場面にまでたどり着いた。


 自意識が強いとは言え、私も年頃の女の子。乙女の勇気を振り絞って、高一郎を自室に誘ったのだ。


 頭に血が上って心臓バクバクで。そして、さあいざ……という時に昨日は寸止め食らわせられた。


 おかげで一晩眠れずに……高一郎としている場面を思い浮かべて自分で自分を慰めて……六回も『して』しまった……


 虚しさもあったけど、気持ちよかった。


 いや。いやいやいや。そうじゃない!


 今はそうじゃない。


 あの女!


 後鳥羽一葉……とか言ったか?


 私から高一郎を取ろうとしている、あの女!


 女と抱き合っていた高一郎もまんざらでもなさそうだった。


 優しい高一郎の事だから、きっぱりすっぱりあの女を切り捨てるのは出来ないのだろう。


 本棚の陰から女を睨みつける。


 そして私は、覚悟を決めてカウンター前に踏み出した。

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