第8話 一葉の告白
「先輩。好きです!」
と、一葉ちゃんが言い放った。一瞬静寂が流れ、その一葉ちゃんは続けてくる。
「前から告白しようと思ってて。でもできなくて」
「う……うん……」
「もう一年にもなってこのままじゃと思って覚悟を決めて……」
「…………」
「先輩。私のこと……嫌い……ですか?」
「いや……」
俺は、正直、全く予想していなかった告白に混乱しながら、なんとか頭を整理して言葉を紡ぎ出す。
「嫌い……じゃない」
正直に答えた。
「嫌いじゃない。むしろ、好きだって言っていいと思う」
それを聞いた一葉ちゃんの表情に、嬉しさがにじみでた。
「先輩と一年間一緒に図書委員をして、先輩のこと、いっぱい知れました。先輩のいいところも、わるいところも」
「うん。俺にはいい所もあるだろうし、もちろん悪い所もいっぱいある」
「だから、勇気を出していいます。先輩、好きです」
一葉ちゃんが胸に両手を抱きしめて、真摯で熱い眼差しを向けてくる。
「…………」
何と言おうか、迷った。でも、嘘をつくのは誰の為にもならないと思ったのではっきりと言葉にした。
「ごめん」
一葉ちゃんに反応はなかった。
「俺には、小さい頃から付き合っている恋人がいる。だから……」
一葉ちゃんの目を見つめて、きちんと謝罪する。
「ごめん。君のことは嫌いじゃない。でも、君の気持ちにはこたえられない」
一葉ちゃんは、狼狽する様子もなく、尋ねてきた。
「明日香さん……ですか?」
「そう。森野明日香。俺の幼馴染で、恋人」
「そうですね。先輩には明日香さんがいますね。でも……」
一葉ちゃんがタイミングを見計らった様に一泊置く。そして訴える瞳で見つめてきた。
「私は先輩のことが好きです」
「うん。その気持ちは……正直、嬉しい」
「なら……」
「なら……?」
「私のこと、先輩の心の隙間に於いてくれませんか?」
「心の隙間……?」
「そうです。先輩の恋人は明日香さん。それはそれでいいです。でも……。明日香さんと喧嘩したりすれ違ったり上手くいかなかったりすることもあると思うんです。そんな時の心の隙間に……私を置いてくれませんか?」
「一葉ちゃん……」
「いいんです。私のことは遊びで。でも、少しでも私の気持ちを慮ってくれるなら……」
「…………」
「私のこと、たまにでいいので思い出して……お話とかしてくれませんか?」
俺は心中でうめいた。一葉ちゃんの想いはわかった。でも、俺には明日香がいる。そんな俺が、一葉ちゃんと……『そのつもり』がなくても近しくしたら明日香はどう思うだろう。だから、言葉を絞り出した。
「俺は……明日香を裏切れないし裏切るつもりは……ない」
「はい。それでいいです。でも……」
一葉ちゃんが俺の胸に飛び込んできた。
「先輩。私、この気持ち、どうしたらいいんですか?」
「一葉ちゃん……」
一葉ちゃんが、すがる様な上目使いで俺を見上げてくる。
「先輩。私……苦しい……です……。だから、友達以上で恋人以下の遊びでいいので、先輩の心の隙間に私の事、置いてくれませんか……」
潤んだ瞳で訴えてくる一葉ちゃん。その表情には、物凄く威力があった。俺の心を揺さぶるだけの想いがあった。
正直、一葉ちゃんとは一年間、楽しく一緒に図書委員の活動をしてきた。俺は一葉ちゃんを妹の様に思って親しくしていたが、それが一葉ちゃんが知らない間に俺に対する想いを募らせた理由にもなった気がする。
普段なら……
普通の状況なら……
それでも一葉ちゃんの告白をきっぱりと断っただろうと思う。
でも今は、問題が起きて明日香とは上手くいってない。喧嘩と言うか、すれ違っている状況だ。加えて二日間まともに寝ていないので、冷静な判断が出来なかったのだろう。
「…………」
俺は、一葉ちゃんにしっかりとしたノーを突きつけずに、図書室を後にしたのであった。
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