第7話 後鳥羽一葉、登場
眠れなかった……
食欲はなかったが何も食べないというわけにもいかない。朝食をとり家を出て、重い足取りで通学路を進む。
そして高級住宅地区からやってきた明日香と鉢合わせした。毎日のルーチン。いつも合流して一緒に登校しているので、時間帯も合ってしまうのだ。
「ふんっ」
明日香はしょっぱなから鼻息が荒かった。
「おはよう……」
とりあえずの挨拶をした俺に、明日香がにらみを効かせてきた。
「何か言うことがあるでしょ」
「いや。申し訳ない……。こんなはずじゃなかったんだけど……。なんと言ったらいいのか……」
「まあいいわ。焦るのは止めたから」
「明日香さん……?」
「同時に手段を選ぶのもやめたから」
「場所……?」
「そう。もう、私の部屋でロマンチックになんて思ってないから。なんというか、学園のトイレでもどこでも」
「え?」
ふふっと不敵な笑みを見せる明日香とそのセリフに、戦慄する。
マジですかーーーーーーっ、明日香さんっ!!
生徒会長かつ、学園一の美少女で優等生の言葉とは思えない言動。
通学路の生徒たちに、ひらひらと手を振りにこやかな笑みを見せながら、俺を捕獲しようと獣の眼光で射抜いてくる森野明日香、おそるべし。
そして俺と明日香は同じ二年二組に入り、ホームルームが始まる。
明日香の宣戦布告に驚愕している俺。そののち六時限目の終わりまでまともな会話がなく、二人の間にはなんとも言えず不穏な空気が漂っている翌日なのであった。
さらに放課後。図書委員の俺は図書室に向かう。
中に入って、カウンターで事務仕事をしていた一年生の
「一葉ちゃん。お疲れ様。作業、手伝うよ」
一葉ちゃんは、黒髪セミロングの良く似合った、おとなし目の女の子。学園のブレザーよりも、淡いセーラー服の方がよく似合いそうな、はかなさを感じさせる後輩の女の子だ。
「ありがとうございます」
丁寧な返事の一葉ちゃんだったが、何か気付いたという調子で続けてきた。
「先輩……」
「ん? なに?」
「なんか……疲れてませんか?」
「いやごめん。疲れてるけど、わかる?」
「わかります。先輩とも、もう一年なので」
ふふっと、小動物の様に笑う一葉ちゃん。すごく可愛くて、守ってあげたいと思わせる女の子で、二年生や三年生にはファンも多い。
面立ちは派手ではないのだが、造りが綺麗に整った美少女なのも理由の一つだろう。
「あの……。今日は実は、言いたいことがあって。覚悟決めてきたんです」
「言いたいこと?」
「はい」
一葉ちゃんは、ぐっと息を飲みこんで、意を決めるという仕草。のち……
「先輩」
「はい」
「いいですか」
「はい。一葉ちゃん」
「思い切って言います。私、先輩のこと……」
一泊置いて、一葉ちゃんが言い放った。
「好きです!」
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