第4話 俺、呪いをかけられる

「キミに決めた!」


 足元から無邪気な声が聞こえて、目を落とす。


 まん丸目玉の黒ネコがちょこんと座っていて、驚いた。


「ネコ? どっから寄ってきたんだ?」


「ボクはクロぼう。『夢魔』だよ!」


「しゃべった!!」


 俺のその驚きに、クロぼうと名乗ったネコがふふんと自慢気に鼻を鳴らす。


「いや。いやいやいや。ネコが日本語しゃべるわけがない。幻聴か? 俺……浮かれすぎてどうにかなっちゃったのか?」


「心配いらないよ! 幻覚でも幻聴でもないから! それよりボクはキミを選んだんだよ! さっきのキミとカノジョの会話を聞いて、キミのカノジョへの想いを感じたんだ。運が悪かったと諦めてね」


 そしてそのクロぼうが、見ている間に俺の足にぷにっとしたネコ球をのせ――ピカっとその部分がフラッシュした。


「『呪い』完了! よかった! これでボクも成果を一件上げられそうだよ」


「ちょっとまてっ! 『呪い』って何だっ! いきなり出てくるネコとか、セーブザキャットとか言うやつじゃないのか!?」


「創作技法とか関係ないよ。ボクは『夢魔』だからね。キミに『エッチすると死ぬ呪い』をかけたんだ」


「エッチ……すると死ぬ……?」


「そうだよ。キミは『森野明日香ちゃん』とエッチすると死んじゃうんだ。死んじゃう相手は『森野明日香ちゃん』限定だけどね」


「明日香と……エッチすると死ぬ……」


「そう。エッチだよ。イワユル男と女がするセッ……」


 俺は慌ててクロぼうの口をふさいだ。通行人が俺を見て、ひそひそと何やらしゃべってる。


 夢魔?


 呪い?


 明日香とエッチすると死ぬ?


 俺、明日香とエッチしたら死んじゃう……のか!?


 いや。いやいやいや。そんなことってないだろ!?


 こいつの言うことを真に受ける必要はない。日本語しゃべってる謎のネコがなんなのかはわからないが……。常識として、こいつの存在はありえない!


 ――と。


「ホントにしんじゃうよ。そしてその魂を僕が美味しく頂くというのがお決まりなんだ。ボクは夢魔だからね。証拠にアノ子のココロを操ってみるよ」


 クロぼうは通りがかりのJKをその手で指す。清楚で大人しそうな女の子だ。


 するとその子は雷に打たれたように立ち止まった後、こちらにとことこと寄ってきて、言い放ったのだ。


「高一郎さん! 好きです! 私とイヤラシイ事してください!」


「ぶぶぶーーーーーーっ!!」


 俺は口に含んでいたコーヒーを噴き出した。いや、含んでないけど。


 あり……えない!


 全く見ず知らずの女子高生が、俺の名前を呼んで、訳の分からない事を口走っている。


 こいつ、本物なのか?


 驚愕しながらクロぼうを見やると、ふふんとしたドヤ顔でネコぐちを丸めている。


 夢魔と名乗ったクロぼう。


 俺に呪いをかけたという。


「こいつ、マジモンなのか……?」


 俺は、見ず知らずのJKを前に、呆然と佇むしかないのであった。

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