第4話 猫ロボ救出作戦

「浩平君、落ち着いて」

「はい」

「でも、今魚店いまうおのたなに捕まったのは不味い。あいつは腹黒なんだ」


 腹黒って? 先生は風紀の担当で厳しい印象しかないんだけど。


「ペットロボが故障して行方不明になる事もあるんだが、わが校の周囲ではその件数が極端に多い」

「え?」

「保護されたペットロボの管理は風紀の今魚店が担当だ。彼がペットロボを闇で転売しているという噂がある」

「ええ?」


 本当ならサラさんはどうなる? あの猫ロボはサラさんの意識が投射されていて、本人から距離が離れると戻れなくなるってサラさんから聞いていた。このまま猫ロボを売られたらマズい。


「もう時間だ。君は教室に戻りなさい。放課後また、ここに来てくれ。君の友達を助けに行こう」

「わかりました」


 僕が教室へ戻ったところで昼休みは終わった。五時限目の授業が始ったんだけど、担任の今魚店先生は教室に現れなかった。心配になった僕は、お腹が痛いと言って教室を抜けだした。そしたら校門から出ていく先生を見つけたので、僕は上履きのまま外に飛び出した。もし、サラさんが水を欲しがっていたらと思って水筒も抱えていた。


 先生は商店街を歩き、端の方にある古びた電気店へ入って行った。


「親父。こいつは高く売れそうだぜ」

「おお、新型じゃないか。メモリの書き換えが上手くいけば200万で売れる。仕事は後で慎重にやるから待ってな」

「わかった。また来るよ」


 僕は咄嗟にカウンターの陰に隠れた。先生は僕に気づかず、そのまま店から出て行った。


 電気店の親父はサラさんをペット用のケージに入れて奥へ向かったので、僕は小声でサラさんに話しかけた。


「サラさん。大丈夫?」

「大丈夫よ。水分が不足気味だから、動かないようにしてたの。浩平君が助けに来てくれるって信じてた」

「あ!」

「どうしたの?」

「僕、サラさんが水飲みたいかもって思って水筒を持って来たんだけど、中身は麦茶だった」

「麦茶だと酔っちゃうかも? でも大丈夫よ。飲ませて」


 麦茶で酔う?

 

 何か変だと思いつつ、僕は水筒のキャップに麦茶を注いでサラさんに飲ませてあげた。


「ふう。これでしばらくは大丈夫。さあ、逃げましょ」

「うん」


 サラさんはテーブルの上から飛び降りて、店の外へと走り出した。僕も彼女を追いかける。


「待て! 逃げるな!」


 店の親父が気づいて追いかけて来たんだけど、肥満気味な体形でろくに走ることができない。僕たちは子供がギリギリ通れる狭い隙間を抜け、宇宙船への入り口がある川沿いの道を目指した。もうすぐあの壁に到着するってところで、スクーターで追いかけて来た今魚店先生が道を塞いだ。


「授業をサボってどこに行く気なのかな。その猫ロボ、盗んだんだろ?」

「違います。盗んだのは先生。僕はこの子を助けたんだ」

「先生の言う事はちゃんと聞く。逆らうと内申書の評価が下がるぞ」


 成績で脅すなんて何て先生だ。こんな身勝手な人が担任だったなんて、本当に驚いた。でも、ここで引き下がったらサラさんは売られてしまう。それだけは絶対に阻止したかった。


「言ってダメなら体に聞くかな」

 

 先生はスクーターのカゴに入れてあった竹刀を持って、ぶんぶんと振り回し始めた。力づくなら敵わない。これは不味いと思ったところで、サラさんが先生の顔に飛びついた。


「痛てて。この馬鹿猫、人に危害を加えるな」

「うい~。何の事かな? 私は私の恋人を守ってるだけよ。ヒック」


 何かお酒に酔ってるみたいだ。猫ロボなのに、どうして? しかも、飲んだのは麦茶だし。


「この、化け猫!」


 先生は竹刀を振り回すんだけど、全然当たらない。サラさんは再びジャンプして、先生の鼻先に噛みついた。


「ぎゃあ!」


 悲鳴を上げて先生はぶっ倒れた。そこへパトカーが通りかかって急停止した。


「あの男、猫ロボ転売の黒幕よ」

「ご協力に感謝します」


 今魚店先生は二人の警官に取り押さえられ、逮捕された。

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