第3話 学校デート

 それから僕たちは付き合い始めた。先ずは彼女の宇宙船に乗せてもらったんだけど、彼女と出会った不思議な部屋が小型の宇宙船だったんだ。最初に行ったのは木星。赤く光る大赤斑周辺で、大気が渦を巻いている様子がよくわかった。また、土星のような環も見ることができた。


 翌日からサラさんは学校について来るようになった。猫ロボの彼女は校庭を散歩したり、教室に忍び込んでは一緒に授業を受けたり、自由気ままに振舞っていた。そして、お昼には屋上でサラさんとお弁当を食べた。僕の学校は給食じゃないのが不満だったんだけど、こういう時はよかったって思えた。サラさんと二人っきりで食事できるから。


「おいしい?」

「うん、おいしいよ。この、ちくわ。すごくいい」


 僕はお弁当のおかずを、少しずつサラさんに食べさせてみる。彼女は猫ロボなのに、おいしそうに食べていた。


「何が好きなの?」

「そうね。お刺身とかかまぼこは好き。コロッケもトンカツも大好き。でも、カレー関係? あのスパイスが効いてるのは苦手かな」

「そうなんだ。スパイスが苦手なんだ。じゃあ、果物は?」

「好き」


 僕は一切れのリンゴを二つに割って、サラさんにあげた。シャリシャリと美味しそうにリンゴをかじっている。うーん。これ、猫ロボだと思っていたけど、本当は本物の猫かもしれない……よくわかんないけど、そんな気がした。


紀伊きい君、何してるの?」


 突然声を掛けられた。振り返ると、担任の今魚店いまうおのたな先生がいた。融通の利かない堅物の先生だ。


「学校で猫を飼ってはいけないよ」

「これ、猫ロボなんです」

「猫ロボだって? そんな物、学校に持って来ちゃいけないじゃないか。没収だ」

「待って。これ、僕んちの猫ロボじゃないんだ」


 説明しようにも、言っちゃいけない事ばかりだ。


「とりあえず、職員室で預かる。持ち主を調べてから返却しなきゃならん。まったく面倒をかけやがって」


 先生はサラさんを捕まえて屋上から降りて行った。


 僕はお弁当箱を片付けて先生を追おうとしたんだけど、また声を掛けられた。


「浩平君。ちょっと待って」


 振り返ると、そこには音楽のシファー・マラク先生がいた。彼女はイラン出身のアメリカ人。色黒だけどすごく綺麗な人だ。


「えっと。猫ロボ、早く助けなきゃ」

「だからちょっと待って」


 僕はシファー・マラク先生に手を引かれ、音楽準備室に引っ張り込まれた。

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