第2話 鴉と任務

「休暇中だったか。すまない。」

「はい。訓練を修了し、休養していました。」

制服姿の初老の男とトランクス一枚の男。半裸の男は初老の男が入室すると起立し直立した。

指示文書ブリーフィングペーパーは読んだか?」

「いいえ。自宅に迎えが来てここに連れて来られました。メディカルチェックの後何本か注射を打たれました。あれは何だったのですか?」

「最新式の兵装だ。微小な機械を体内に埋め込んで音声通信に加えて拡張視野映像をコンタクトレンズに映し出す。通信機のようなものだと思ってくれ。」

「最新式。実験中ということでしょうか。」

「そう思ってくれて構わない。このまま指示伝達ブリーフィングを始めて良いか?」

「はい。」

「すまないな。」

初老から男へ一束の紙が渡される。

「読みながら聞いてくれ。」

男は無言のまま初老の顔と紙束に交互に視線を送る。

「現在から4時間前、武装集団LOCUSTsがモーラソー島を占拠。本国政府に要求を通達してきた。」

「要求は?」

「現金1億ドルと本国に拘束されている仲間の解放。そしてモーラソー島を独立国家として承認し、不可侵条約を結ぶこと。」

「随分と大きく出ましたね。」

「そうだ。要求が叶えられない場合はモーラソー島から核兵器を搭載した弾道ミサイルをこちらへ向けて発射すると言っている。」

「空爆はできないのでしょうか。」

「空軍が準備を進めている。しかし、連中から察知されたら即時にボタンを押されかねない。」

「そうですか。それで私の任務は、」

「うむ。君はこのような時のために特別な訓練を受けていたのだ。」

「単独潜入任務。」

「そうだ。極秘を期すため持ち込める者は少ない。武器弾薬その他の物資は現地調達だと考えてくれ。」

「敵の規模は。」

「その文書にある。総員で300名。リーダーはレインと名乗っている。組織内では少佐と呼ばれている。その他に幹部と見られる構成員が数名。」

「狙撃手、爆薬の専門家、怪力。まるでアベンジャーズだ。」

「うむ。それに……。」

「超能力者。正気ですか?」

「信じがたいが、調査した結果だ。読心術リーディング念動力サイコキネシスを持っている。ヘイルと呼ばれている。」

ヘイル。」

「君の任務はモーラソー島に潜入し、レインをリーダーとするLOCUSTsを排除。ミサイル発射の危機を回避することだ。」

「了解。任務に移ります。」


3時間後、指令を受けた男はモーラソー島近海の海中にいた。航空機から男の入ったポッドを海上へ射出。着水したポッドはモーラソー島の海岸まで潜行。海岸にぶつかってからポッドを脱出し水面に顔を出した男は岸壁をよじ登り、基地を遠くに見渡す場所に降り立った。


男は匍匐の姿勢で左の耳に手をあてる。コンタクトレンズ状の装備に島の地図、通信相手の映像、男自身のバイタルサインが表示される。

「目的地に到着した。応答願う。」

「うむ。」

拡張視野には自分に指令を下した初老の男が写っている。

「基地から300mほどの地点、計画通りの地点に上陸した。」

「こちらでもモニタしている。任務終了まで君の視覚と聴覚を共有していると考えてくれ。必要に応じて、こちらからもコールする。こちらの音声は君の聴覚に直接届くようになっている。君にしか聞こえていない。」

「了解。それでは、潜入を開始する。」

「その前に、伝えることがある。君の本作戦におけるコードネームだ。」

「わかった。コードネームは?」

ROOKルークだ。」

新人ルーク。潜入任務は初めてだが、新人呼ばわりは心外だ。」

「いや、ルークという名はミヤマガラスから取った。狡賢くふてぶてしいお前にぴったりだと思ってな。」

「了解。こちらからは何と呼びかければ?」

「うむ。ベンと呼んでくれ。ベン大佐だ。」

「了解だ。それでは、ルーク、潜入を開始する。」

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雹の夜に鴉は舞い降りる 御堂 はるか @hot_green_tea

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