06話 私の幸せの為に住んでくれません?

 ここで生活を始めて大きな問題ができた。

 いや、妖怪が出るというのも大問題なんだけど。

 何故あいつらは私の頭を叩くのだ。結構痛いんだぞ。

 殴らなかったのは猫又と酒呑童子くらいかな。

 いや、酒呑童子に殴られたらきっと死ぬ。

 その上出てくる奴に何でいちいち馬鹿と言われなければならないのだ。私だって傷つくよ。

 「はあ、何だか悩みどころがおかしくなったよ。最初の悩みは生活のことだよ」

 と言ったところで妙な気配に気がついた。少し幸せになった気分がする。

 「猫又、猫又ってば」

 また肝心のところでいない。

 「ギギギ」

 何か開く音がする。クローゼットだ。

 また何か出てくるのか。勘弁してください。

 やっぱり出てきた。けど今度は可愛らしい女の子。

 おかっぱ頭で着物を着ている。3歳くらいかな。

 「ええと、どちら様で」

 「あっ出てくるところ間違えた」

 いきなり無視された。

 「あの、ちょっとってば。あなたも妖怪ですか」

 ようやくこっちを見た。可愛い。

 「この姿を見て分からんのか。馬鹿女」

 何かが心臓を貫いた様な気がする。

 「子供の可愛らしい妖怪って……もしかして座敷童子!」

 「な、何だその目付きは」

 逃がすか。ほりゃあ!

 かわされた。

 「あのー。もしかして私を幸福にしてくれるので? お金持ちになるのでもいいですよ」

 いかん、欲望がだだ漏れてしまった。

 「なんで私がお前を幸せにしなければならんのだ」

 「でも、ここに現れたということは」

 幸せにしろ。いえ、してください。

 「だから間違えたと言ったであろう」

 間違え? そういえば他にそんなのが来たことがあるような……あ、アマビエさんだ。

 「間違えでも何でもいいのでここに住んでください。お願いします」

 じっとりとにらまれた。

 しかし、その程度で私が引き下がるとでも思ったか。縛り付けてでもこの家から出すもんか。

 とりあえず、クローゼットに戻らないように……

 「お前、何をしている。ここは妖怪の通り道だろう。そんな所塞いでも無駄だよ、この馬鹿者めが」

 ぐっ。ここは我慢我慢。千載一遇を逃してたまるか。

 「お、座敷童子ではないか。珍しい所に来たな」

 猫又が帰ってきた! 知り合いか、そのままとどめろ。

 「前居着いた所が金金金といってわずらわしいから、引っ越す事にした」

 「前って何処だ」

 よし、そのまま引き止めろ、猫又頑張れ。

 「何やら政治家とか言ったな。滅べばいいのに」

 「お前が出ていったんだ。間違いなく痛い目にあうと思うぞ。ところでここに住み着く気か?」

 座敷童子と猫又がこっち見た。うう、なんか冷や汗が出てきた。欲望の塊ですみません。

 「あのちんけな女にくとでも?」

 ちんけ。

 「まあ、ここは妖怪の通り道だから聞いてみた」

 聞くだけか。推しとどめろ。

 「確かにここは気分がいい。しかし私は子どもボランティアとかいう団体に行くと決めたのだ」

 負けた。子ども食堂には勝てない。

 「おい、なんで座り込んでうなだれている」

 猫又、聞かないでくれ。

 自分の食い扶持ぶちは自分で稼ぐよ。

 「まあ、少しかわいそうだから、ちょっとだけ分けてやろう」

 「ほ。ほんと?」

 スマホに電話がかかってきた。

 『依代よりしろ先生、エッセイの連載が決まりましたよ』

 し、出版社……

 「ではまたな。霊気が欲しくなったらまた来るよ」

 座敷童子、なんでトイレから帰るのだ。

 「良かったじゃないか。低収入ゲット」

 「いやそれは……自分で働いて稼げという」

 「働かないでどうする。最近お前、だらけ過ぎだぞ」

 また猫又に説教された。

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