04話 私もビールくらいは飲みますが?

 あの猫又は無視していれば問題無いような。

 何が悪さをするわけでもないし、寄ってきて仕事の邪魔をする訳でもないみたい。

 というか、妖怪2匹と遭遇して私は何故平然としていられるのだろう。自分でもわからないんだけど、既に脳みそを吸われているとか。

 「なんか背筋が。脳みそは仕事にかかわるから勘弁してほしいんだけど」

 「何をぶつぶつ言っている。客が来たぞ。それも偉い方だ。失礼な事をするなよ。早くもてなせ」

 「は? お客さん? どこからいつの間に?」

 「本当に馬鹿だなお前は。ここは妖怪の通り道だと教えてやっただろう」

 また馬鹿って言われた。

 「その偉い方って隣の部屋?」

 「他に部屋があるのか。この馬鹿め」

 馬鹿馬鹿言うな。本当に馬鹿になったらどうする。

 「とりあえず見てくる」

 扉を開けたら鬼がいた。

 思わず扉を締めてしまったが、鬼は無いと思うんだけど。見間違いなく鬼だった。

 「おい、何故扉を締める。とりあえずアレを持ってこい」

 部屋の中のあの鬼がなんか言ってる。

 扉を少し開けて覗いたらその鬼と目があった。

 「アレって何ですか」

 「酒呑童子と言ったら酒以外あるか。この馬鹿め」

 しゅ、酒呑童子って。しかもまた馬鹿って言われた。

 しょうがない。お酒をってビールしかないけど、酒呑童子はビールを飲むのか。私の大事な黒生だぞ。

 流石に怖いから持って行くしかないけど。

 「家にあるのはビールだけなんですが」

 「びーる? 何だそれは。よこせ」

 あ、飲んだ。

 「何だこれは。ほとんど水と変わらぬ。まあシュワシュワするのは面白いが。お前、ちゃんとした酒を持ってこい。こんなのではなく儂が満足するくらい沢山のちゃんとしたやつだぞ」

 なんて事を言い出すんだ、私は貧乏なのに。

 だが怒らせたらまずいような気がする。

 しかしちゃんとした酒って何だ。日本酒か? 焼酎か? 近所の酒屋で買えるだけ買うしか選択肢がないよ。

 

 買ったお酒が重くてちょっと時間がかかってしまったけど大丈夫かな。部屋に入るの嫌なんですが。

 「か、買ってきました」

 「遅い!」

 「そう言われましても」

 「お前、酌をしろ」

 何を言い出すんだ、この鬼は。

 「で、では」

 美味そうに飲んでる。しかし疑問が。

 「あの、酒呑童子様。ひとつ質問してもいいですか」

 「なんだ」

 「貴方は源頼光と彼の四天王に倒されたのでは……」

 「貴様、その名前をよくも儂の前で言えるな」

 怖い。怒らせたか。怖いぞ。

 「ふん。認めたくはないがやられた。が、もとの身体の一部だけ残ったのだ。だからこうしてここにいる。ここの霊気と酒があればそのうち復活出来ると思うのだが」

 一部? 理解できない。

 しかしここに長居をさせたらまずい気がする。酒も飲ませ過ぎたらまずいかも。

 「身体の一部って、もしかしてあの頃より弱いとか」

 あ、ストレートに聞いてしまった。やばい。

 「貴様なんて事を言う……しょうがないだろ」

 なんだかもう酔っぱらっている?

 正直に答えたよ。一番の問題も聞いてみよう。

 「ええと、ここに住み着く気はないのでしょうね」

 「こんな狭い所にいつまでもいられるか。たまに寄らせて霊気と酒を貰うがな」

 こいつも勝手なことをいう。しかし私はかよわい女だし、逆らわない方がいいかも。源頼光みたいなのは今いないし、いたとしてもどこにいる。

 「まあいい。今日は挨拶に来ただけだ。残りの酒は貰って帰る。また来たときのために酒をきらすなよ」

 なんて迷惑な。

 「しゅぽん」

 あ、言うだけ言って消えてしまった。

 「あの、猫又。どうしたらいいの」

 「どうって、言う事を聞くしかないだろうが」

 なんてことだ。しかしネタ帳に書いておこう。

 「お前、もう諦めろ。現実を受け止めるしかない」

 「貧乏なのにあんなにお酒を飲まれては、生活が」

 「知ったことか。引っ越してきたお前が悪い」

 「そんなあ」

 「諦めるしかないな」

 この野郎。私も飲んで今のことは一旦忘れよう。

 現実を受け止めるしかない。いや、現実なのか?

 ホントに勘弁して欲しい。でも3年縛り。

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