DATA=3 鴉#4
肉塊と繋がった頭部は依然として歪んだ異貌の眼差しでレルムを捉えていた。揺ら揺らと首から繋がる管を揺らしながらレルムへと迫る。レルムは怯えたまま腰を抜かし、ただ目を離せずにいた。しかし、震える唇で朧げな記憶に残る名前を呟いた。
「は、蓮水さん」
異貌は答えない。そうであった事など忘れてしまったかの様に。歪んだ三日月を引き攣らせるだけ。脳裏に浮かぶ黒髪の優しかった人間はレルムの中にしか存在していない。
「どうして……どうしてなんですか蓮水さん……ここで、何が……?」
いなくなってしまったドクターは何処に行ってしまったのか。自分は何故残されたのか。目の前の異形はなんなのか。分からない事だらけだった。レルムはその全てを知りたいと思った。けれど答える者はいない。目の前にある現実は非情なまでの残酷さを以てレルムに告げていた。
「ころしてあげよ」
異貌が迫る。歪んだ三日月が牙を剥き、鋭利な乱杭歯が現れた。歯間には赤黒い血液がこべりつき、漏れる吐息は脳が痺れる程の腐臭を含んでいる。レルムは思わず呼吸を止めながら恐怖に顔を歪めた。
その時だった。
もう一つの異音に気付いたのは異貌が間近に迫り、今にも食いつかれそうな瞬間であった。たたた、と軽快に廊下を鳴らす音。何者かが疾駆する音だった。異貌もそれに気付いたのかレルムから顔を離して音の方を向く。咄嗟にレルムは叫んだ。
「────助けて下さい!!」
同時、レルムのいる部屋の扉が爆ぜた。ばごん、という音と共に吹き飛んだ扉は異形の頭部に衝突し鈍く湿った音を鳴らす。レルムは扉を突き破って現れた存在を見て目を丸くした。
「無事でしたか、レルムくん」
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