DATA=3 鴉#3
宇宙とはまるで虚空を覆う神経網の様だ。
全天に広がる漆黒とそこに浮かぶ光の粒。
明滅する信号は星の爆発であり、観測する自分達はそれを他に伝える新たな信号に過ぎない。果たしてその信号が何を齎すのかすら理解し得ない矮小な存在で、宇宙という巨大な神経網の中では塵芥以下の存在だ。
全てがそうだ。凡ゆるヒエラルキーは頂点と最底辺が繰り返される無限の中にある。
遠い遥か彼方、宇宙の深淵で扉が開く音が聞こえる。それは絶望の到来か、はたまた最後に残された希望か。いずれにせよ星は巡り、移り行く定めにあった。
がちゃり。
その瞬間、レルムの心臓の鼓動は再び跳ね上がった。過ぎ去ったはずの脅威はまだそこに居て扉を開こうとしている。扉の裏で硬直するレルムは先刻と同じように息を殺す────
「みつねた」
頭上から声が聞こえた。はっきりと人間の言葉で喋っていたが、発音が異常であり人間では無いとレルムに直感させる。臭気が室内に流れ込み、声の主は歓喜するかの様にぞりぞりという奇怪な音を発する。
「…………!」
恐怖に硬直し、呼吸が無意識の内に浅くなっていく。レルムは視線だけを上方へと動かす。喉が渇く、意志では拒むも心が目を逸らさずにはいられなくした。そしてついにレルムは“それ”を見た。
黒い毛髪が長く垂れている。手入れは行き届いておらずくしゃくしゃの濡れた髪の先からは赤色の液体が滴り落ちて、レルムのすぐ手前に赤い点を落とす。血走った赤黒い瞳が凝視していた。瞳孔は開き切ってネコ科の動物を思わせる血濡れた満月。赤黒い肌の異貌の生命体がパリパリと音を立てて歪んだ三日月の様な笑みを浮かべていた。
「うわぁぁあぁぁぁッッ!?」
レルムが叫び声を上げると同時、異形は扉を弾き飛ばす様に室内に入り込む。レルムの唯一の退路には異形の
黒髪の────どこか見覚えのある頭が。
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