DATA=3 鴉#2
ドクターのもとで本格的な勤務が開始して一月が経った。最初渡された作業書の記憶に数日を要した事以外は順調なものであり、蓮水は助手という役割を十全にこなしていた。
またこの施設に務め分かったのはここの技術は“外”よりも百年、或いは千年先を行く水準を持っている事。そのどれもが非常に冴えた頭脳を持つ蓮水でさえ理解の範疇に収められたのはごく一部のモノだけだった事。
当初担当だと言われていたレルムとは未だ対面しておらず、どの様な外見をしているのかすら知らなかった。しかし今日になって蓮水はレルムと対面する事となった。
「そろそろ蓮水くんにも彼と会ってもらおう」
不意にそう告げるドクターに蓮水はぴくりと肩を震わせる。いつも不意を突く様に言葉を発するのはこの人の癖だと蓮水はとうに慣れていた。そして蓮水はこの一月でドクターなる人物をこう認識していた。
意識と意識の隙間に割り込む様な人柄。言葉遣い。この人物に至るまでの思考に永遠の隔たりがある様に感じられる。さながらそれは“生きるパラドックス”の様だと。
「彼と会うに際して幾つか注意点がある」
構わずドクターは続ける。
「一つ、目を見るな。二つ、優しく振る舞え。三つ目は……これだ」
「これは?」
見覚えの無い小さな機械だった。リストバンドよりは細く腕時計に似た細い形状をしており、本体と思しき四角上の板から上下に管が伸びている。管の先端には細い針が突出していた。
「
だとして何故そんな装備が必要なのだろうか。記憶に残ることの何が不味いのか。答えはすぐにドクターが告げた。
「レルム。あの子は現実と夢を繋げてしまう。あの子の夢は全て記憶から形成され、夢に見たモノを現実に“起こしてしまう”」
「……今更ですが、質問をよろしいですか?」
これまで業務について何も質問してこなかった蓮水がそう問い返した事にドクターは少し沈黙した後「いいだろう」と頷く。蓮水はその反応を見て何となく察しながらも続ける。
「私たちの立つこの場所は彼の“夢の中”ですか?」
その問いにドクターが答える事は無かった。
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