DATA=2 P.N.D.R#4
がちゃり。がちゃり。がちゃり。がちゃり。がちゃり。がちゃり。
室外から響くその音にレルムは硬直した。距離は近くは無い、けれど遠くも無い。ドアノブを回す音と扉を開く音。
────自分以外にも何者かがいる。
その事に喜ぶべきか一瞬戸惑い、すぐに別の考えに至った。何度もドアノブを回しては探し回る様な物音を立てる不気味さ、室外にいる正体不明の何かが通路途中にあった部屋を一つ一つ開けて、音は次第にレルムのいる部屋に近付いてきていた。
────隠れないと!
硬直から解き放たれたレルムはすぐに身を隠せる場所を探して部屋内を咄嗟に見回すが、部屋には窓ひとつなく逃げ出せる様な小さな通路も無い。音は近付いていた。
がちゃり。がちゃり。
一つ隣の部屋のドアノブを回している。そしてレルムは室外の存在の“声”を聞いた。人間の声帯からは発される様な音では無い何かを引き摺る様な音に似た呻き声を。
外には何がいるのか。想像する事は恐怖を煽り冷静さを奪う速度を加速させる。焦る。レルムの背筋に冷や汗が浮かび心臓は鼓動を速める。
がちゃり。
レルムのいる部屋のドアノブが音を立て、レルムは部屋の扉を見遣る。何かがこの部屋の前に立っている。それを想像しただけでレルムの呼吸は荒くなった。鼓動が警鐘を鳴らし続けており、苦しさからレルムは病衣の胸元を片手でぎゅうと握り締める。
ゆっくりと回り始めたドアノブから視線を外す事が出来ず、時間の流れが緩慢になったかの様な錯覚にレルムは囚われその時が近付く。
次の瞬間、扉が開かれた。
這いずる様な音。室内に満ちる異様な臭気と生暖かい風。何かが今室内にいる。
その事をレルムは開け放たれた扉の裏で感じ取っていた。息を殺し、震える身体を無理矢理強張らせ、何かが去るのをひたすらに待った。その間にもレルムの思考を逡巡させていた。
ここで何が起きたのか。何が現在進行形で起きているのか。山積みになっている疑問は幾つもあるが、優先的に解消すべき疑問はその二つで、その一つは現在対峙しているこの何かであろう事は想像がついた。
こんな場所にただ一人残され自分に何が出来るのか、レルムはドクターの意図が理解出来ずにただ何かが去るのを待つ。
数秒か、或いは数分が過ぎた頃、部屋の扉がゆっくりと閉じられ始めた。徐々に閉じていく扉の傍らでレルムは微かに安堵する。強張っていた身体から緊張が取り除かれていき、鼓動も落ち着きを取り戻しつつあった。
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