DATA=2 P.N.D.R#3

 その日初めて少年──レルムは病室から足を踏み出した。これまでずっと気にした事も無い世界の外側へと。金属床の冷たさが少年に実感を持たせる。

 廊下に出ると明かりの殆どが消えており、足元を照らす小さなライトだけが薄暗い廊下の奥へと点々と続く。これまでレルムは知る事が無かったが自身の部屋はこの廊下の最奥にあったのだと知り、進む道は一つだけだと理解する。

「…………」

 意を決して前に進む前にドクターの残した地図を確認する。簡易に記されただけの手書きの地図。現在地をレルムの病室に、そこから続く廊下の先で三つに分かれた道を左に曲がり直進、その突き当たりにある部屋に丸印が付けられている。向かう途中でレルムは考えた。

 ────一体ここで何が起きたのだろう。それ以前に自分は何かを理解し何かを知っていただろうか? 

 レルムの自問の答えはレルム自身がとうに分かっている。

 ────自分は何も知らない。

 唐突に訪れた知る為の機会がこんなものだとは思いも寄らなかったが、レルムは僅かに高揚していた。先に進む足に躊躇は無く、目的の部屋にはすぐに辿り着いた。


 その部屋は剥き出しのコンクリートに覆われ質素というよりは無骨で冷たさを感じさせる。中には小さなデスクと壁の一面を埋め尽くすスチール製の書棚とそこに敷き詰められた数字とアルファベットだけのファイル群。これらが何を意味しているのかレルムは知る由も無かったが、一つだけ心当たりのあるモノを見つけそれを手に取った。

「僕の名前だ」

 ケース名:レルムとだけ記された簡素でただ数枚だけの紙束。記された文字列に目を落とし、数行の文字を辿るがどれ一つとして理解には至らなかった。しかし、その紙束をレルムは一先ず懐に仕舞いドクターの残した言葉を思い出す。

 そう、この部屋にはドクターの残した“備え”があるはず。周囲を見渡したレルムはデスクに目をつける。恐らくはこの部屋はドクターの物であり、彼が残した備えは彼が使用していたデスクにあるのだろう。デスク上には特に目立つ様な物は無い。直近まで読まれていたらしき学術書が幾つかと恐らくはドクターの私物の万年筆。

「引き出しあるかな……」

 レルムはデスクに備え付けの引き出しに手をかけた。その時だった。

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