DATA=2 P.N.D.R#1

「外界の修復率はどうだ?」

 抑揚の無い声に問いかけられ、円卓に座る九人の内の一人が「報告します」と言って立ち上がった。

「現在、外界の修復は22・6%。その内建造物等の修復は8%。残りは不明なオブジェクトが占めています」

 少しクセのついた栗色の髪の青年が手にしたバインダーに目を落としながら淡々と述べていく。彼の名は〈ブラウン〉と言う。新任の“施設”メンバーであり、修復率の測定を任されている。また“不明なオブジェクト”についてのリストの作成も担当していた。その時、別の男が溜息と共に口を挟んだ。

「……異常だな」

 彼が配布したリストをひとしきり捲って目を通した男はバサッと円卓の上に乱雑に置く。四十半ばにの眉間に皺のある白髪混じりの短髪の男はブラウンが抗議の目を向けてきているのも気にせずに言葉を続けた。

「ドクター、あんたがどう思っているのかは知らないがこんなのは“異常”だ」

 肩肘を突いてドクターに向かって告げる男。それに対しドクターは。

「オブジェクトについては危険なモノである事は把握している。それ故にリストの作成をブラウンに依頼し、蓮水には対処法の考案を任せている」

 だが男は「そうじゃない」と手のひらを煽いだ。

「俺が言ってるのはあんなガキ一人に背負わせていい事じゃないって言ってんだ。他に手段は無かったのか?」

「……エハト、キミの言う事は最もだ。彼に負わせた責は到底彼一人に支えられるモノでは無い。同時に我々の背負った罪は彼以上に重いものだ。そして現時点では他の手段は無い。故に我々は自らの存在を犠牲にしてでも彼の支援を行う必要がある。キミもそれは理解しているだろう?」

「当たり前だ。だけどな、このままじゃ世界が直る前にあのガキの方がぶっ壊れちまう」

「その事についても方策を探っている。次回からは彼の“探索”に同行する支援ユニットを用意するつもりだ」

「支援ユニット?」

 エハトと呼ばれた男が聞き返すとドクターは一つの小さな機械を取り出した。それはまるでオルゴールの収まっている木箱にも見えたが、それにはオルゴールを巻くための螺子も無ければ、開く様な接ぎ目も無い。単なる箱にしか見えない代物だった。

「なんだよコレは?」

「これが彼を支援する為の“道具”だ。今は最終調整に入っている為実演は行えないが、概要だけは説明しておこう」

 その置かれた箱に視線が集まる中、ドクターは話を続けた。

「現状持ち得る手札で辛うじて技術化に至った唯一の“道具”それがこの小さな匣。再生と理性。実行と是正。それらを意味する装置。通称〈P.N.D.Rパンドラ〉。エハト、キミの危惧している“オブジェクト”、それを人間の“道具”として技術化したものだ」

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